「同性のパートナーを保険金の受取人にできますか」。この質問に、保険会社の窓口が言葉に詰まった時代がありました。2015年の秋、渋谷区と世田谷区で同性カップルの証明書が始まったとき、それに合わせて手を挙げた保険会社は限られていました。あれから10年あまりでパートナーシップ制度は人口の9割超をカバーするところまで広がり、保険の側も「受取人にできるかどうか」ではなく「どの書類で、どこまでできるか」を比べる段階に入っています。

ただ、進んだのは生命保険の受取人の話だけではありません。入院したときに代わりに給付金を請求する仕組み、賃貸や持ち家にかける火災保険、自動車保険の「配偶者」の扱い、そして家を買うときの団体信用生命保険もあります。保険と名のつくものは暮らしのあちこちにあり、そのひとつひとつで、同性のパートナーが「家族」として扱われるかどうかが分かれます。

この記事は、その全体を一枚の地図にしたものです。生命保険の各社の対応から、医療保険、損害保険、団信、そして受け取るときの税金まで、いま何ができて、何がまだ変わっていないのかを順に見ていきます。個別の手続きを深掘りした記事は別にあるので、そちらへの入り口としても使ってください。

パートナーシップ制度は人口の9割超に広がり、保険会社の対応も追いついた

虫眼鏡をのぞき込む子ども。保険会社ごとの条件をひとつずつ確かめるイメージ

出発点をはっきりさせておきます。ライフネット生命が同性のパートナーを死亡保険金の受取人に指定できるようにしたのは、同社の案内ページにあるとおり2015年11月4日の申し込み分からでした。同じ時期に、第一生命の2015年11月のニュースリリースのように、渋谷区の証明書の写しがあれば受取人の指定手続きがスムーズになると発表した大手も並びました。当時の各社の対応は、証明書を前提にする会社と、自社の書類で同居を確かめる会社の二つに割れていて、どちらも「渋谷区の外に住んでいたらどうするのか」という問いに答えられていませんでした。

その問いは、制度の側が答えました。Marriage For All Japanの導入自治体データベースによれば、パートナーシップ制度を持つ自治体は571に達し、人口カバー率は93.82%、33の都道府県では全域で証明書を受け取れます。2022年11月には東京都全体の宣誓制度も始まり、区市町村の制度がない場所に住んでいても都の受理証明書が取れるようになりました。「証明書が取れる地域に住んでいるか」は、もう大きな壁ではありません。

そして保険会社の側は、証明書を「手続きをスムーズにする書類」として受け付けるのが標準になりつつあります。東京都総務局は受理証明書等により利用可能となる民間事業の一覧(2025年10月1日時点)を公表していて、生命保険だけでなく損害保険、自動車保険、住宅ローンの欄に、同性パートナーを配偶者と同じように扱う会社が並んでいます。2015年には想像しにくかった一覧です。

生命保険の受取人は、大手を含む5社以上で同性パートナーを指定できる

まず、いちばん検索されている「受取人にできる会社」から整理します。ここでは東京都の一覧と各社の公式案内に載っている範囲だけを書きます。一覧の要件欄の多くに「等」が付いているので、これで全部ではなく、載っていない会社が対応していないという意味でもありません。

会社 同性パートナーについてできること 主な要件(公表されている範囲)
アクサ生命 死亡保険金受取人、指定代理請求人に指定できる 同社の案内では「証明書不要」で指定できる(東京都の一覧では証明書等の提示が要件と記載)
ソニー生命 受取人等に指定でき、指定代理請求人にも登録できる場合がある(いずれも「一定の要件のもと」) 同居していること 等
第一生命 パートナーシップ証明書類の写しの提出で、原則、受取人に指定する手続きがスムーズにできる 同居していること 等
明治安田生命 「一定の要件のもと」受取人等に指定できる。証明書の写し等の提出で手続きがスムーズになる 同居の確認ができること 等
ライフネット生命 死亡保険金受取人に指定できる(2015年11月4日申込分から) 住民票(発行日から6か月以内)と所定のパートナー関係確認書面、または自治体のパートナーシップ証明書の写し

会社名のリンク先が各社の公式ページ、要件の欄は主に東京都の一覧にもとづいています。アクサ生命のように、公式ページでは「証明書不要」と案内しながら都の一覧では証明書の提示が要件になっている例もあるので、最終的には申し込み時に会社へ確かめてください。受取人の範囲を原則として配偶者や一定の親族と定めたうえで、それ以外の人は個別に事情を確認する、という運用の会社もあります。契約を考えている会社が表にないときは、「同性のパートナーを受取人に指定したい」と最初に伝えて、必要書類を聞くのが早道です。

証明書があれば手続きが軽くなり、なくても住民票と所定の書面で申し込める

机に広げた書類と鉛筆。保険会社によって求められる書類が違う

2015年に各社の対応を並べたとき、はっきり二つの型に分かれていました。自治体の証明書があれば手続きできる「証明書タイプ」と、証明書の有無にかかわらず自社の書類で同居や関係を確かめる「独自書類タイプ」です。この分け方は、10年あまりたった今も役に立ちます。ただし、それぞれの意味は変わりました。

  証明書タイプ 独自書類タイプ
用意するもの 自治体のパートナーシップ証明書の写し 住民票と会社所定のパートナー関係確認書面(面談がある場合も)
2015年の弱点 渋谷区に住んでいないと使えなかった 証明書があっても改めて会社の確認を受けた
いまの姿 人口の9割超が証明書を取れる地域に住む。残る手間は窓口での宣誓や届出 証明書がない地域でも申し込める。ライフネット生命は証明書の写しも受け付けるようになり、境目は薄れた

証明書そのものの取り方や使い道は、同性パートナーシップ証明書の手続きから活用まで解説した記事にまとめています。会社を選ぶ基準は「証明書が使えるか」ではなく、「自分たちがいま用意できる書類で、いくらまで、どの商品で指定できるか」に移っています。

同居期間や配偶者の有無によっては、上限付きになったり断られたりする

受取人に指定できる会社でも、申し込めば必ず通るわけではありません。ライフネット生命は案内ページで、同居期間や戸籍上の配偶者の有無といった条件によっては、保険金額に上限を設けての引き受けや、お断りする場合があると明記しています。書面審査に加えて、訪問面談で申込内容を確かめる場合があることも書かれています。法律婚の夫婦なら求められない手間が残っていることは、正直に伝えておきます。

どの書類をどう用意するか、住民票の続柄の書かれ方、公正証書は要るのかといった実務の細かい部分は、同性パートナーを生命保険の受取人にする方法を条件・必要書類・税金まで掘り下げた記事で扱っています。この記事ではこれ以上深入りせず、生命保険の外へ話を広げます。

医療保険の給付金は、指定代理請求人にしておけばパートナーが代わりに請求できる

死亡保険金の受取人と混同されやすいのが、指定代理請求人です。医療保険や、がん保険、就業不能保険では、給付金を受け取るのは本人です。ところが、本人が意識のない状態だったり、告知されていない病名を理由に本人に請求させにくかったりする場面があります。そのときに代わって請求できる人として、あらかじめ契約に登録しておくのが指定代理請求人です。

ここでも同性のパートナーを指定できる会社が増えています。東京都の一覧では、アクサ生命とソニー生命が指定代理請求人にも同性パートナーを指定できると明記しています。もしパートナーが救急搬送されて、あなたが病院に駆けつけたとします。手術の同意を求められ、入院費の支払いが始まり、本人は話せない。そのとき、給付金を請求する権利が誰にあるのか、考えたことはありますか? 思っている以上に切実な問題です。仕組みと手続きは同性パートナーを指定代理請求人にする備えを解説した記事に書きました。生命保険の受取人を決めるとき、同じタイミングで指定代理請求人も決めておくことをすすめます。

火災保険・自動車保険では、大手損保5社が同性パートナーを配偶者として扱う

ここからは、2015年にはほとんど話題にならなかった領域です。損害保険の世界でも、「配偶者」の定義に同性のパートナーを含める会社が出てきました。東京都の一覧に火災保険や自動車保険の項目で載っている会社と、各社が公表している条件をまとめます。

会社 同性パートナーを配偶者として扱う保険 確認書類・条件(公表されている範囲)
あいおいニッセイ同和損保 火災保険、自動車保険 同居していること 等。配偶者の定義に「戸籍上の性別が同一であるが婚姻関係と異ならない程度の実質を備える状態にある方」を含む
ソニー損保 火災保険、自動車保険 「パートナー関係に関する自認書兼同意書」か自治体の証明書・宣誓書受領証のどちらかと、同一住所を確認できる公的書類(運転免許証・住民票など)
損保ジャパン 火災保険、傷害保険、自動車保険 婚姻の意思を持ち、同居により婚姻関係に準じた生活を営んでいること。書類は自認書兼同意書か自治体の証明書
東京海上日動 火災保険、傷害保険、自動車保険 会社所定の確認資料でパートナー関係を確認
三井住友海上 火災保険、傷害保険、自動車保険 会社所定の確認資料か自治体の証明書。同居により婚姻関係に準じた共同生活を送っていること。傷害保険では同性パートナーを死亡保険金受取人に指定できる

会社名のリンク先は各社のよくある質問など公式ページ、条件の欄は東京都の一覧と各社の公表内容をもとにしています。

これが暮らしにどう効くのか、二つの場面で考えてみてください。ひとつは賃貸の火災保険です。契約者が一方だけで、もう一方は「同居人」扱いのままになっています。火事や水漏れで家財が傷んだとき、パートナーの持ち物まで補償されるかどうかは、保険会社が二人をどう見るかで変わります。もうひとつは自動車保険の運転者限定です。「本人・配偶者限定」で保険料を抑えている契約で、パートナーがハンドルを握ったとき、補償は出るでしょうか? 配偶者に同性パートナーを含める会社なら、この特約がそのまま使えます。

自動車保険は毎年、火災保険も満期や更新のタイミングがあるので、いま入っている保険でも次の更新時に扱いを変えられることがあります。契約時に何も伝えていないなら、一度「同居している同性のパートナーがいる」と話してみてください。それだけで、補償の範囲が変わることがあります。

フラット35の連帯債務で借りれば、団信は二人とも保障される

住宅ローンを組むと、団体信用生命保険(団信)に入ります。これも生命保険の一種です。【フラット35】のペアローンの案内にあるとおり、二人がそれぞれ借りる形だと団信も別々で、片方が亡くなったときに消えるのはその人の債務だけで、残された側のローンは残ります。ここを取り違えたまま「団信があるから大丈夫」と思っている人が少なくありません。

  ペアローン 連帯債務+連生団信
契約の数 2本(それぞれが債務者) 1本(二人が連帯債務者)
団信 それぞれ別々に加入 二人とも保障される連生団信を選べる
片方が亡くなったとき その人の債務だけ消え、もう一方のローンは残る ローン全体が保障の対象

いまは、二人とも保障される選択肢があります。住宅金融支援機構は2023年1月4日以後の申し込み分から同性パートナーとの連帯債務を認める案内を出していて、連帯債務で申し込めば二人とも保障される夫婦連生団信(デュエット)を選べます。東京都の一覧には、三井住友銀行が連生団信への加入を条件に同性パートナーの連帯債務型借入を認めていることも載っています。どの組み方が自分たちに向くか、団信で何が残るかは、同性パートナーと住宅ローンの団信を整理した記事で詳しく比べています。家を買う予定があるなら、生命保険の受取人を考える前に、まずここを押さえてください。

保険金には非課税枠も生命保険料控除も使えず、相続税は2割加算される

受取人に指定できたら、それで終わりではありません。保険金が支払われるとき、法律婚の夫婦とは違う税金の計算が待っています。詳しい計算は先ほどの受取人の記事に譲り、ここでは「知らないと手取りが変わる」三点だけを書きます。

  • 死亡保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)は使えません。国税庁のタックスアンサーNo.4114が「相続人以外の人が取得した死亡保険金には、非課税の適用はありません」と明記しています。同性のパートナーは、養子縁組をしていない限り相続人ではないからです。
  • 相続税がかかる場合、税額に2割が加算されます。タックスアンサーNo.4157のとおり、配偶者と一親等の血族以外の人が対象です。
  • 保険料を払っている人の生命保険料控除も使えません。タックスアンサーNo.1141は、控除の対象になる契約を、受取人のすべてが本人か配偶者かその他の親族であるものと定めています。

一方で、誤解されやすい点をひとつ正しておきます。遺産全体にかかる基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)は、受け取る人がパートナーでも使えます。基礎控除は遺産の総額から差し引くもので、誰が取得するかで消えるものではありません。「同性パートナーは基礎控除が使えない」と書かれた解説を見かけますが、これは正確ではありません。保険金と他の財産を合わせた額が基礎控除の範囲に収まれば、相続税はかかりません。

証明書で手続きは軽くなるが、相続人になれない点と税金は変わらない

ここまで読むと、証明書さえあれば保険の問題はほぼ解決するように見えるかもしれません。半分は、そのとおりです。生命保険の受取人指定、指定代理請求人、火災保険や自動車保険の配偶者扱い、フラット35の連帯債務と、手続きの入り口は、証明書で確実に軽くなりました。

変わらないのは、法律の側です。東京都も事業者向けのパートナーシップ宣誓制度の案内で、宣誓によって法律上の効果が生じるものではないと明記しています。パートナーは相続人にはなれず、税金の計算は他人と同じ扱いのままです。だからこそ、保険は「遺言を書かなくてもパートナーにお金を渡せる」数少ない手段として、法律婚のできない二人にとって重みを持ちます。そのうえで、家や預金など保険でカバーできない財産をどう渡すかは、同性パートナーと相続の対策を家の購入後の視点でまとめた記事と、判断能力が落ちたときに備える任意後見契約と遺言・死後事務の使い分けを解説した記事で続きを読んでください。

証明書が取れない・別居している・受取人を変えたい場合は、こう対処する

保険の相談を受けていると、同じ質問が繰り返し出てきます。ここでは三つだけ、短く答えます。

証明書が取れない地域なら、独自書類タイプの会社か都道府県の制度を使う

まだ制度のない自治体に住んでいる人は、人口比で6%ほど残っています。その場合の道は二つあります。ひとつは、住民票と会社所定の書面で申し込める独自書類タイプの会社を選ぶことです。もうひとつは、都道府県単位の制度を使うことです。東京都のように広域の制度がある地域なら、区市町村に制度がなくても受理証明書が取れます。自治体の証明書に代わる書類として、任意後見契約や合意契約の公正証書を認める金融機関もあるので、家の購入まで視野にあるなら公正証書を先に作る選択も現実的です。

別居のカップルは会社ごとの個別判断なので、申し込む前に可否を聞く

正直に書くと、ここはまだ狭い道です。表に載せた会社の要件には「同居していること」が並んでいて、独自書類タイプでも住民票で同居を確かめます。別居のまま受取人に指定できるかは会社ごとの個別判断になるので、申し込む前に「別居だが指定したい」と伝えて可否を聞いてください。断られた場合は、遺言で保険以外の財産を渡す形を先に整えるほうが早いこともあります。

いまの契約でも受取人はパートナーに変更できる

新しく契約し直す必要はありません。受取人の変更は、契約の途中でもできる手続きです。親や兄弟を受取人にしたまま何年も過ぎている契約は多く、そのままだと保険金は書かれている人に支払われます。変更の際に同居や関係を示す書類を求められる点は新規契約と同じなので、証券を手元に置いて、まず保険会社に「受取人を同性のパートナーに変更したい」と連絡するところから始めてください。

今日できるのは、証券の確認・証明書の取得・損保への申告の3つ

10年前なら、同性パートナーと保険の話は「制度が広がるのを待つ」で終わっていました。いまは違います。やることが具体的に決まっています。

  1. いま入っている生命保険と医療保険の証券を出して、受取人と指定代理請求人が誰になっているかを見る。
  2. 住んでいる自治体か都道府県で証明書が取れるかを確かめ、取れるなら二人で取りに行く日を決める。
  3. 火災保険と自動車保険の更新月を調べ、次の更新で「同居している同性のパートナーがいる」と保険会社に伝える。

保険は、二人の関係を法律が認めていなくても、お金の面で相手を守れる仕組みです。どの会社に入るかより先に、いまの契約で相手が守られているかを見ることです。それが、この記事を読み終えた今日にできる、いちばん確かな一歩だと思います。