パートナーが病気で入院し、抗がん剤の副作用で書類にサインすらできない。加入していた医療保険の給付金は、本人以外の誰が動けば受け取れるのでしょうか。同性パートナーは法律上の家族ではないので、当たり前に代わりを務められるわけではありません。

実は生命保険や医療保険には、こうした場面のためにあらかじめ「代わりに請求できる人」を指定しておく制度があります。それが指定代理請求制度です。この記事では、この制度の仕組みと、誰を指定できるのか、同性パートナーは対象になるのかを整理し、今日から始められる備えをまとめます。

指定代理請求制度とは何か

生命保険や医療保険の保険金・給付金は、原則として受取人本人が請求します。ところが本人が請求の意思表示をできない状態になることは、誰にでも起こり得ます。指定代理請求制度は、契約のときにあらかじめ「代理人」を指定しておき、本人に特別な事情が生じたときに、その代理人が本人に代わって保険金や給付金を請求できるようにする仕組みです。公益財団法人生命保険文化センターも、多くの生命保険会社がこの特約を用意していると説明しています。

指定しておかなければ使えない制度なので、存在を知らないまま契約している人も少なくありません。まずは自分の保険証券を見て、指定代理請求人の欄が空欄になっていないか確認してみてください。

どんなときに使われるのか

指定代理請求制度が動くのは、本人に「特別な事情」があるときです。具体的には、事故や病気で意識がなく意思表示ができないとき、認知症の進行で保険に入っていたこと自体を忘れてしまったとき、そして治療上の配慮でがんの病名や余命を本人にまだ告知していないため、本人が請求できる事実を知らないときなどが挙げられます。抗がん剤治療の副作用で手が震え、請求書類にサインするのが難しくなるケースも実例として知られています。

どの場合も共通しているのは、本人の意思が消えたわけではなく、一時的または治療上の理由で「請求する行動」だけができない、という点です。だからこそ、元気なうちに誰を代理人にするか決めておくことが意味を持ちます。

誰を指定できるのか

指定代理請求人になれる範囲は保険会社ごとに定められていますが、業界に共通する大枠があります。戸籍上の配偶者、直系血族、3親等以内の親族、そして親族でなくても本人と同居または生計を一にしている人、本人の財産管理をしている人、療養看護にあたっている人などです。この大枠は最初からあったものではありません。2020年3月の改定で、3親等以内の親族は同居や生計同一でなくても指定できるようになったのと同時に、親族ではないけれど本人と同居・生計同一の人や、財産管理・療養看護にあたる人を指定できる区分そのものが新しくつくられました。東京海上日動あんしん生命の案内は、この改定の内容を具体的に示しています。

ポイントは、この範囲が「戸籍上の家族」だけに閉じていない点です。同居や生計同一という、関係の実態に着目した区分が2020年の改定で用意されました。同性パートナーが入り込めるとすれば、まさにこの部分になります。

同性パートナーは指定できるのか

結論から言うと、保険会社によっては指定できます。たとえばSOMPOひまわり生命は、公式FAQで指定代理請求人になれる条件の一つとして「被保険者と同居し、または、被保険者と生計を一にしている方」を挙げ、その具体例に内縁関係の人と並べて同性パートナーの名を明記しています。SOMPOひまわり生命のよくある質問で公開されている条件です。

もっとも、これは各社の約款や運用にもとづくもので、業界すべての保険会社が同じ扱いをしているわけではありません。契約している保険会社に確認する際は、「同性パートナーを指定代理請求人にできますか」「必要な証明書類はありますか」と具体的に尋ねるのが近道です。同居していることや生計をともにしていることを、住民票や自治体のパートナーシップ受理証明書で示せると話が早く進みます。

「保険金受取人」とは何が違うのか

ここまで読んで、生命保険の「受取人」指定と混同しそうになった方もいるかもしれません。似ているようで、役割はまったく別です。受取人は本人が亡くなったときにお金を受け取る人、指定代理請求人は本人が生きているけれど請求できないときに、本人の代わりに動く人です。どちらか一方を決めておけば足りる、というものではありません。

  保険金受取人 指定代理請求人
本人の状態 死亡している 生存しているが請求できない
受け取るお金 死亡保険金 入院給付金・手術給付金など
権利の性質 もともと自分の権利として受け取る 本人に代わって請求するだけ

指定していないと、何が起きるのか

もし指定代理請求人を決めていなければ、本人が請求できない状態になったとき、保険会社は個別に事情を確認しながら対応を検討することになります。手続きが長引けば、給付金が振り込まれるまでの間、入院費や治療費を自分たちで立て替え続けることにもなりかねません。同性パートナーが病院で直面しやすい場面と同じで、「関係を示す手立てがない」ことが、いちばん時間を奪う原因になります。お金の問題だけでなく、隣で付き添うパートナーが手続きのたびに関係を一から説明しなければならない負担も、決して小さくありません。

今日からできる手続き

手続き自体はそれほど難しくありません。順番に進めれば、多くは書類のやり取りだけで終わります。

  1. 自分と相手が加入している生命保険・医療保険・がん保険を、証券を見ながら一つずつ洗い出す
  2. 各保険会社のコールセンターや担当者に、指定代理請求特約が付いているか、パートナーを指定できるかを確認する
  3. 指定できる場合は、指定代理請求人の変更・追加の手続き書類を取り寄せて記入する
  4. 同居や生計同一を示す資料として、住民票やパートナーシップ受理証明書を準備する
  5. 指定した内容と保管場所を、パートナー本人にも共有しておく

このとき役立つのが、住んでいる自治体のパートナーシップ制度で発行される受理証明書です。関係を証明する書類として提出を求められることが多く、口頭で説明するより手続きがスムーズに進みます。複数の保険に入っている場合は、契約ごとに指定が必要になる点も忘れずに確認してください。

あわせて備えておきたいこと

指定代理請求制度は、本人が「生きているあいだ」に給付金を受け取るための備えです。万一のときにパートナーへお金を残したいなら、生命保険の受取人をパートナーに指定する手続きもあわせて確認しておくと、生きているときと亡くなったあとの両方に備えられます。財産や住まいの引き継ぎ方まで考えるなら、同性パートナーと相続もあわせて読んでみてください。備えは一つでは完結せず、いくつかを重ねて初めて穴がふさがります。

まとめ

指定代理請求制度は、本人が請求の意思表示をできなくなったときに備える、意外と知られていない仕組みです。指定できる範囲は保険会社ごとに違い、同性パートナーを認めている会社もあれば、まだ確認が必要な会社もあります。加入している保険を一つずつ見直し、パートナーを指定できるか聞いてみることから始めてみてください。倒れたときに困るのは、たいてい「決めていなかったこと」です。今日、確認の電話を一本かけておくだけで、その不安は確実に減らせます。