もし明日、自分がいなくなったら——パートナーの手元には、何が残るでしょうか。日本の法律では、同性のパートナーは相続人になりません。何十年一緒に暮らしていても、遺言がなければ財産は親やきょうだいのほうへ行きます。名義の違う口座も、二人で払ってきた家のローンも、その事実の前では無力です。
ただ、その状況をかなりの部分ひっくり返せる方法が、実はひとつあります。生命保険の受取人に、パートナーを指定しておくことです。2015年ごろから業界の対応が広がり、いまでは所定の要件を満たせば同性パートナーを死亡保険金の受取人にできる会社が複数あります。しかも死亡保険金は、遺言で渡す財産とは法律上の扱いが違います。
この記事では、受取人に指定するために実際に何が必要か、断られるのはどんなときか、そして多くの記事が書き落としている税金の話——相続税の非課税枠、2割加算、生命保険料控除——を、国税庁や法令の一次情報にあたりながら整理します。家を買った二人に関わる団信の話にも触れます。
同性パートナーを生命保険の受取人にできます
まず結論から書きます。要件を満たせば指定できます。ただし、すべての生命保険会社が対応しているわけではありません。
きっかけは2015年でした。渋谷区と世田谷区がパートナーシップ制度を始めた年です。スマイル少額短期保険(当時のアスモ少額短期保険)は同年10月から、両区の証明書を受け取ったカップルについてパートナーを死亡保険金受取人に指定できるようにし、翌月には証明書のないカップルにも対象を広げました。ライフネット生命も2015年11月に取扱いを開始し、同時に全商品で同性パートナーを指定代理請求人にできるようにしています。以降、大手・中堅が続きました。
背景にあるのは、自治体制度の広がりです。Marriage For All Japanの導入自治体データベースによれば、2026年7月時点でパートナーシップ制度を導入しているのは563自治体(全1,788自治体中)、人口カバー率は93.71%。制度のない都道府県はもうひとつもありません。ただしこれは同団体の調べで、国の公式統計ではありません。全国の登録件数については、渋谷区と虹色ダイバーシティの共同調査による9,836件(2025年5月31日時点、導入自治体530)が最後の集計で、この調査は「一定の成果が得られた」として同年で終了しています。
ここで押さえておきたいのは、東京都パートナーシップ宣誓制度のページにも明記されているとおり、この制度そのものに法律上の効果はないという点です。宣誓しても相続権は生まれませんし、配偶者控除などの税制優遇も受けられません。保険会社が証明書を求めるのは、法的な地位を確認しているのではなく、二人の関係を裏づける書面として扱っているからです。制度でできること・できないことの全体像は、パートナーシップ制度でできること、できないことを解説した記事にまとめています。
「受取人にしておく」ことが、遺言よりも効く理由
生命保険をすすめる記事はたくさんありますが、なぜ遺言ではなく保険なのかまで踏み込んだものは多くありません。遺言と保険では、パートナーの手元に届くまでの道のりがまるで違います。順番に見ていきます。
前提を確認します。日本の民法では、相続人の順位は決まっています。第1順位が子、子がいなければ第2順位の直系尊属(親など)、それもいなければ第3順位のきょうだいです。配偶者は常に相続人になりますが、ここでいう配偶者は婚姻届を出した相手だけを指します。国税庁も内縁関係の人は相続人に含まれないと明記しています。同性パートナーも同じです。何も準備しなければ、財産は血縁のほうへ流れていきます。誰もいなければ、家庭裁判所が相続財産清算人を選び、6か月以上の公告を経て、特別縁故者への分与という手続きを踏み、それでも残ったぶんは国庫に入ります。パートナーが特別縁故者として申し立てる道はありますが、期間制限が厳しく、家庭裁判所の裁量なので確実ではありません。
では遺言を書けば解決するかというと、ここに遺留分という壁があります。民法1042条により、きょうだい以外の相続人には、遺言でも奪えない取り分が保障されています。子や親がいる人が「全財産をパートナーに」と遺言を残しても、その人たちから遺留分侵害額請求を受ける可能性が残ります。2019年7月からこの権利は金銭債権になったので、家そのものを取られることはなくなりましたが、パートナーが現金を用意して支払う立場に立たされるのは変わりません。
死亡保険金は、ここが違います。保険金請求権は、保険契約にもとづいて受取人が自分の権利として取得するものと解されていて、亡くなった人の遺産には含まれません。最高裁も2002年(平成14年)11月5日の判決で、受取人を変更する行為は「遺贈又は贈与に当たるものではなく、これに準ずるものということもできない」と述べています。だから遺産分割協議を待つ必要がなく、実務でも遺留分を計算するもとになる財産には原則として入らないと理解されています。
ただし「絶対に安全」と言い切るのは正確ではありません。最高裁は2004年(平成16年)10月29日の決定で、相続人のひとりが受取人になっていて、保険金額が遺産全体に比べて著しく高額であるなど、相続人どうしの不公平が到底是認できないほど著しい特段の事情があるときは、特別受益に準じて持ち戻しの対象になりうると判断しました。これは相続人どうしの公平を問題にした判断なので、そもそも相続人でない同性パートナーが受取人の場合はこの射程の外にあります。とはいえ、争いが一切起きないという保証ではないと考えておくのが誠実です。
| 何もしない | 遺言を書く | 保険金の受取人にする | |
|---|---|---|---|
| パートナーに渡るか | 渡らない(血縁へ) | 渡る | 渡る |
| 遺留分の影響 | — | 受ける(きょうだい以外の相続人) | 原則として受けない |
| 遺産分割協議 | 必要 | 原則不要 | 不要 |
| 受け取るまでの早さ | — | 手続き次第で長期化 | 請求から比較的早い |
| 用意する費用 | — | 公正証書遺言の作成費用 | 保険料 |
遺言と保険は、どちらかを選ぶものではありません。不動産や預貯金は遺言で、まとまった現金は保険で、と役割を分けるのが現実的です。家を買ったあとの相続対策については、同性パートナーと相続について書いた記事で不動産の名義の話まで含めて扱っています。
受取人に指定するために、実際に何が必要か
ここからは手続きの話です。要件は会社ごとにかなり違い、業界共通のルールはありません。生命保険協会が公表しているガイドラインを見ても、同性パートナーの受取人指定について統一基準を定めたものは見当たりません。つまり「A社で通った条件がB社でも通る」とは限らないということです。
会社によって、見ているポイントが違う
東京都が公表しているパートナーシップ宣誓制度の受理証明書等により利用可能となる事業一覧(PDF・2025年10月1日時点)を見ると、生命保険分野に載っているのはアクサ生命・ソニー生命・第一生命・明治安田生命の4社です。対象者の主な要件は、ソニー生命と第一生命が「同居していること 等」、明治安田生命が「同居の確認ができること 等」、アクサ生命が「自治体等が発行するパートナーシップ証明書等を提示すること」です。同居の事実を見る会社と、書面を見る会社に分かれています。どの欄にも「等」が付いているので、これで全部ではありません。
ライフネット生命のように、住民票と自社所定の確認書面という組み合わせを用意している会社もあります。同社は2024年2月から、自治体のパートナーシップ証明書でも手続きできるように要件を追加しました。日本生命は受取人の指定範囲を原則「配偶者および3親等以内の血族・1親等内姻族」としたうえで、それ以外の人を指定する場合は個別に事情を確認するとしており、大阪市のLGBTリーディングカンパニー認証の紹介ページでは、所定の要件を満たせば同性パートナーを指定できると自ら説明しています。
用意することになる書類
会社によって求められるものは違いますが、実務で登場するのはおおむね次のいずれかです。
- 自治体が発行するパートナーシップ証明書・宣誓書受理証明書の写し
- 同居を示す住民票(発行から6か月以内などの期限が付くことがあります)
- 保険会社所定のパートナー関係確認書面(自認書兼同意書などの名称で呼ばれます)
- 戸籍上の配偶者がいないことを確認できる書類
住民票を使う場合、世帯主との続柄がどう書かれるかは自治体で分かれます。「同居人」のところもあれば「縁故者」のところもあり、世田谷区は2024年11月から、宣誓した人の申出により住民票の続柄を「夫(未届)」「妻(未届)」等または「縁故者」に変更する取扱いを始めています。窓口で何と書かれるかを事前に確かめておくと、保険の手続きで戸惑わずにすみます。
なお、公正証書は必須ではありません。任意後見契約と合意契約の公正証書をそろえる話がよく出てきますが、あれは渋谷区がパートナーシップ証明書を出すために求めている区独自の要件です。生命保険会社が一律に公正証書を求めているわけではありません。ただし金融分野では、住宅金融支援機構が自治体の証明書に代わる書類として「同性パートナーに関する合意契約に係る公正証書の正本または謄本」を認めるなど、公正証書が効いてくる場面もあります。
断られること、上限が付くこともあります
ここは正直に書いておきます。申し込めば必ず通るわけではありません。ライフネット生命は自社サイトで、戸籍上の配偶者の有無や同居期間といった条件の違いによっては「保険金額に上限を設けてのお引き受けとなる場合や、お断りする場合もございます」と明記しています。書面審査に加えて、訪問による面談で申込内容を確認する場合があるとも説明しています。
保険金の不正取得を防ぐための審査なので、この手間そのものは理解できます。それでも、法律婚の夫婦なら婚姻届の写しひとつで済む手続きに、こちらは同居の証明と面談を求められる。その非対称は事実として残ります。各社がどう動きはじめたのかは、2015年当時の各社の発表をまとめた記事に残しています。ただしその後に要件を見直した会社もあるので、いまの条件は各社の案内で確かめてください。
知らずに契約すると損をする、税金の話
受取人に指定できた。それで終わりではありません。実際に保険金が支払われるとき、法律婚の夫婦とはまったく違う税金の計算が待っています。ここを書いている記事は驚くほど少ないのですが、受け取ったあとの手取りを左右するのはこの部分です。
契約のかたちで、かかる税金の種類が変わります
死亡保険金にかかる税金は一種類ではありません。国税庁のタックスアンサーNo.1750によれば、被保険者・保険料の負担者・受取人が誰であるかによって、相続税・所得税・贈与税のいずれかになります。判定の軸は契約者の名義ではなく、実際に保険料を負担した人が誰かという点です。
| 相続税になる | 所得税になる | 贈与税になる | |
|---|---|---|---|
| 被保険者 | Aさん | Aさん | Aさん |
| 保険料の負担者 | Aさん | パートナーBさん | パートナーBさん |
| 受取人 | パートナーBさん | パートナーBさん | 第三者のCさん |
| Bさんの扱い | 遺贈で取得したとみなされる | 一時所得として課税 | — |
いちばん多いのは左の型、つまりAさんが自分に保険をかけて自分で保険料を払い、受取人をパートナーのBさんにしておくかたちです。この場合Bさんは相続人ではないので、保険金を「遺贈により取得したもの」とみなされて相続税の対象になります。遺言を書いていなくても、受取人に指定してあるだけで相続税の納税義務者になる、という点は覚えておいてください。
真ん中の型、Bさんが保険料を払ってAさんに保険をかけ、受取人もBさんにしておくと、これは一時所得になります。課税されるのは「受け取った保険金 − 払い込んだ保険料 − 特別控除50万円」を2分の1にした金額で、他の所得と合算して所得税・住民税がかかります。相続税の計算がまるごと外れるので、遺産の規模によってはこちらが有利になることもあります。
相続税の非課税枠は、使えません
生命保険には「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠があります。法律婚の夫婦なら、この枠のぶんだけ保険金が課税対象から外れます。
この枠は使えません。国税庁のタックスアンサーNo.4114が「相続人以外の人が取得した死亡保険金には、非課税の適用はありません」と明記しているとおりです。条文(相続税法12条1項6号)も主語が「相続人の取得した」保険金に限定されています。この号は2026年3月まで5号だったので、少し古い解説書では番号がひとつずれています。同性パートナーは、普通養子縁組をして法律上の親子関係を作っている場合を除き、相続人には当たりません。
誤解されやすいのですが、「非課税枠が使えない」だけであって、他の控除まで全部使えないわけではありません。ここは次で書きます。
そのうえ、相続税が2割加算されます
ここが、上位の解説記事でもほとんど触れられていない部分です。相続税法18条1項は、財産を取得した人が被相続人の「一親等の血族および配偶者以外の者」であるとき、その人の相続税額に2割を加算すると定めています。加算額は、税額控除前の相続税額の100分の20です。
要件が「法定相続人以外かどうか」ではなく「一親等の血族および配偶者以外かどうか」である点に注意してください。相続放棄をした子が遺贈で財産を受け取っても、その人は相続人ではありませんが一親等の血族なので加算されません。逆に、きょうだいや甥姪は法定相続人になっても加算されます。同性パートナーは配偶者でも一親等の血族でもないので、条文に当てはめると加算の対象になります。ただし二人が養子縁組をしている場合は、養子は一親等の法定血族に当たるため加算されません。
生命保険料控除も、対象外です
毎年の年末調整でおなじみの生命保険料控除も使えません。所得税法76条5項は、控除の対象となる契約を「保険金等の受取人のすべてをその保険料若しくは掛金の払込みをする者又はその配偶者その他の親族とするもの」と定義しています。受取人がパートナーだと、この「配偶者その他の親族」に当たりません。ここでいう配偶者は民法の規定による配偶者、つまり婚姻届を出した相手だけを指し、パートナーシップ制度の証明では代われません。民法725条が定める親族の範囲(六親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族)にも入りません。
ちなみに介護医療保険料控除も同じ受取人要件で、個人年金保険料控除はさらに狭く、年金の受取人が本人か配偶者に限られます。所得税の生命保険料控除は3区分あわせて年12万円が上限(住民税は7万円)なので、この差は毎年じわじわ効いてきます。
使える控除もあります
ここまで読むと絶望的に思えるかもしれませんが、遺産に係る基礎控除は関係なく使えます。「3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数」というあの控除は、相続税法15条1項により、財産を取得した人が誰であるかにかかわらず遺産全体の課税価格から差し引かれるものだからです。
そして、法定相続人がひとりもいない場合でも基礎控除はゼロになりません。相続税法基本通達15-1が「相続人の数が零である場合における…遺産に係る基礎控除額は、3,000万円となるのであるから留意する」と明示しています。「相続人がいないと基礎控除が使えない」という話をときどき見かけますが、誤りです。
たとえば、子も親もきょうだいもいない人が、パートナーを受取人にした3,000万円の保険を残したとします。他に財産がなければ、課税価格3,000万円から基礎控除3,000万円を引いてゼロ。相続税はかかりません。これが5,000万円だと、差引後の2,000万円に税率15%・控除額50万円を当てはめて250万円、そこに2割加算の50万円が乗って300万円、という計算になります。相続人がひとりもいない場合は法定相続分で分けてから税率をかける手順が使えず、残額にそのまま累進税率がかかる点(相続税法16条のかっこ書)も、金額が大きくなるほど効いてきます。実際の税額は他の財産や個別の事情で変わるので、具体的な数字は税務署か税理士に確認してください。
家を買った二人にとっての、団信と生命保険
住宅ローンを組んでいるなら、生命保険の話は団体信用生命保険(団信)と切り離せません。ペアローンで家を買った二人のうち、片方が亡くなったとき、ローンはどうなると思いますか。ここを取り違えたまま「団信に入っているから大丈夫」と思っている人が、実はかなりいます。
ペアローンだと、片方の債務は残ります
二人で家を買うとき、ローンの組み方はペアローン・連帯債務型の収入合算・連帯保証型の収入合算に分かれます。ペアローンは二人がそれぞれ別の契約を結ぶかたちで、団信も別々に加入します。つまり片方が亡くなったとき、消えるのはその人の債務だけです。住宅金融支援機構も【フラット35】ペアローンの注意点として「団体信用生命保険は個別にご加入いただくため、一方のお客さまに万が一のことがあった場合でも、もう一方のお客さまはご自身の債務について返済を継続する必要があります」とはっきり書いています。
残された側は、収入がひとり分になった状態で、自分の債務を返し続けることになります。この差額を民間の生命保険で埋めておく——それが、家を買った同性カップルにとっての生命保険のいちばん現実的な使いみちです。どのローンの組み方が向いているかは、収入合算とペアローンを比較した記事で詳しく整理しています。
【フラット35】には、二人とも保障される選択肢があります
住宅金融支援機構は2023年1月4日以後の借入申込受付分から、同性パートナーを連帯債務者・収入合算者・融資物件共有者にできるようにしました。そして連帯債務で申し込む場合、二人とも保障される「デュエット」(ペア連生団信)を選べます。機構は加入要件のページで、デュエットを利用できる「ご夫婦」には「戸籍上の夫婦のほか、婚約関係にある方、内縁関係にある方、同性パートナーの関係にある方を含みます」と明記しています。
ただし条件があります。まず、連帯債務であることが前提です。ペアローンで申し込む場合も、二つの融資のうち連帯債務とする申込みがあるときに限られます。借入金利には年0.18%が上乗せされます。新3大疾病付機構団信ではデュエットを使えず、返済の途中から切り替えることもできません。提示する書類は、地方公共団体が発行するパートナーシップ証明書・宣誓書受領証(またはこれに準ずる書類)か、同性パートナーに関する合意契約に係る公正証書の正本または謄本のいずれかです。
そしてもうひとつ、機構のパンフレットが注記している話があります。デュエットで一方が亡くなってローンが完済された場合、残された連帯債務者は免除された部分を一時所得とみなされ、所得税の課税対象になる場合があります。ローンが消えて終わり、ではないということです。
民間の金融機関だと、団信への加入は原則として必須です。国土交通省の「令和7年度 民間住宅ローンの実態に関する調査」では、回答した994機関のうち審査項目に健康状態を挙げた955機関について、834機関が団信加入を必要とし、選択可能が89機関、不要はわずか2機関でした。連帯債務型や連帯保証型の収入合算では団信の対象が主債務者だけになることが多いとされますが、夫婦連生型を用意する金融機関も出てきています。取扱いの有無も上乗せ金利も会社ごとに違うので、検討している金融機関に直接確かめてください。
請求するとき、実際に何が起きるか——そして今のうちにできること
契約したあとの話も書いておきます。受取人に指定されていても、そのときが来たら請求手続きは自分でしなければなりません。そして同性パートナーの場合、法律婚の配偶者より一手間多くかかる場面があります。
死亡届については心配いりません。戸籍法87条1項は届出義務者を「同居の親族」「その他の同居者」「家主、地主又は家屋若しくは土地の管理人」の順で定めていて、同居しているパートナーは「その他の同居者」として届け出られます。
つまずきやすいのは戸籍謄本です。戸籍法10条1項で当然に請求できるのは、戸籍に記載されている本人とその配偶者・直系尊属・直系卑属に限られ、パートナーは入っていません。ただし絶対に取れないわけではなく、10条の2により、自分の権利を行使するために必要な場合などは理由を明らかにすれば第三者として請求できます。保険金の請求で被保険者の死亡の事実を示す書類が必要になる、という理由がまさにこれに当たります。「取れない」と諦めず、窓口で事情を説明してください。
請求の期限にも気をつけたいところです。保険法95条1項により、保険金を請求する権利は行使できるときから3年で時効にかかります。パートナーを亡くした直後に手続きどころではない時期が続くのは自然なことですが、この3年だけは頭の片隅に置いておいてください。
受取人の変更は、保険法43条により保険事故が発生するまで契約者がいつでもできます。ただし死亡保険金の受取人変更は、45条により被保険者の同意がなければ効力を生じません。44条は遺言による変更も認めていますが、遺言が効力を生じたあとに契約者の相続人が保険会社へ通知しないと会社に対抗できないので、確実にしたいなら生前に手続きを済ませておくほうが安全です。関係が変わったのに受取人を昔のままにしている契約は、思っている以上によくあります。
もうひとつ、指定代理請求人の登録も検討する価値があります。本人が意思表示できない状態になったときに、代わりに給付金を請求できる人をあらかじめ決めておく仕組みで、同性パートナーを指定できる会社があります。病院で「ご家族ですか」と止められる場面については、同性パートナーの入院・手術の同意について書いた記事で扱っています。
保険だけでは足りないこと
生命保険は強力ですが、万能ではありません。渡せるのは現金であって、家そのものや預貯金の名義は動かせないからです。
二人で暮らしてきた家に住み続けられるか。共有名義にしていた持分はどうなるか。判断能力が落ちたときに、誰が代わりに手続きをするのか。こうした問題は、保険とは別の道具で備えることになります。
- 公正証書遺言——不動産や預貯金をパートナーへ遺す
- 任意後見契約——判断能力が落ちたあとの財産管理と生活の手配を託す
- 合意契約公正証書——二人の関係と生活費の分担を書面にしておく
- 死後事務委任契約——葬儀や住まいの片づけ、各種解約を任せる
お金の全体像から考えたい方には、LGBTsの老後に必要な金額について書いた記事が入口になります。
制度そのものが動く可能性もあります。「結婚の自由をすべての人に」訴訟は全国6件が争われ、高裁段階では5件が違憲、1件が合憲と判断が分かれました。最高裁第三小法廷は2026年3月25日、この6件をすべて大法廷に回付することを決めています。2026年7月時点で判決はまだ出ていません。婚姻の平等が実現すれば、ここまで書いてきた相続の話も税金の話も、根本から変わります。
けれど、それがいつになるかは誰にも分かりません。分からないまま待つあいだにも、生活は続きます。
まとめ
同性パートナーを生命保険の受取人にすることは、いまの日本の制度のなかで、二人がとれるもっとも確実な手のひとつです。相続人になれないという壁を、保険契約という別のルートで迂回できるからです。遺留分の影響を原則として受けず、遺産分割協議を待たずに受け取れる。この二つは、遺言だけでは得られません。
いっぽうで、非課税枠が使えないこと、相続税が2割加算されること、生命保険料控除の対象外になることは、契約する前に知っておきたい事実です。知らずに「これで安心」と思い込むのがいちばん危ないので、必要な保険金額を考えるときは、税金で目減りするぶんも見込んでおいてください。
手続きは面倒です。同居の証明を出し、面談を受け、会社ごとに違う条件を確かめて回る。法律婚なら要らない手間ばかりです。それでも、その面倒を引き受けておくことで、残された相手が「赤の他人」として扱われる場面をひとつ減らせます。
IRISでは、住まいの相談だけでなく、家を買ったあとの備えについてもご相談を受けています。何から手をつければいいか分からないという段階でも構いません。二人の状況を伺いながら、順番に整理していきます。






