六月の代々木公園は、いつもの週末とは空気が違っていました。6月6日と7日の二日間、芝生のあちこちで虹色の旗が揺れ、ステージからは音楽と歓声が絶え間なく流れます。Tokyo Pride 2026。のべ約27万人が、この場所に集まりました。そして7日の昼、そのステージには各党の議員が次々と立ち、ほとんど同じ一言を口にします。「同性婚の法制化を」。お祭りの高揚と、社会への問いかけ。その両方が、同じ芝生の上に同居していました。
お祭りは二日で終わります。でも、当事者の暮らしは、月曜からも続きます。手をつないで歩いたあの解放感を、部屋を借りる場面や、家を買う場面まで持ち帰れるか。そこが、ほんとうの宿題です。この記事では、当日の会場の様子から、ステージで繰り返された「最高裁の判決が出る前に」という言葉、住まいの課題に向き合うブースの声、そして法制化を待つあいだに二人がいまできることまでを、順に見ていきます。ニュースの二日間を、あなたとパートナーの暮らしの話として読めるように書きました。
Tokyo Pride 2026で、何があったのか
まずは、この二日間の事実から。Tokyo Pride 2026は、2026年6月6日(土)と7日(日)、東京・代々木公園で開かれました。主催はNPO法人 東京レインボープライド、今年のテーマは「多様性と平等がひらく未来」です。7日の正午に始まったプライドパレードは、代々木から渋谷、原宿へとまちを歩きました。会場には国内外の企業やNPO、飲食店まで、多彩なブースが並びます。入場は無料。誰でも、ふらりと立ち寄れる場所でした。当日の規模は、下の表にまとめます(東京レインボープライドの公式発表、Tokyo Pride 公式サイト)。
| 項目 | Tokyo Pride 2026 |
|---|---|
| 開催日 | 2026年6月6日(土)・7日(日) |
| 会場 | 代々木公園 |
| テーマ | 多様性と平等がひらく未来 |
| のべ動員 | 約27万人 |
| パレード | 約15,000人/60梯団(パレードに参加している集団の単位) |
| 出展ブース | 217 |

会場には、住まいとLGBTQ+の課題に取り組むブースの姿もありました。くわしくは記事の後半で紹介します。
かつて「東京レインボープライド」と呼ばれていたこのイベントは、2025年から名前を「Tokyo Pride」に変え、開催も春から6月へ移りました。6月は、世界中で「プライド月間」とされる月です。日本のなかの催しから、世界とつながる場へ。名前が変わるというのは、小さなことのようでいて、その運動が次の段階に入ったしるしでもあります。これだけの人が一つの公園に集まるようになったこと自体が、社会の関心の広がりを物語っています。半世紀にわたってパレードがなぜ続けられてきたのか、その歴史と意義はプライドパレード完全ガイドでも振り返っています。
壇上の「愛は勝つ」と、議員たちの「同性婚の法制化を」
今年のTokyo Prideで、多くの人の胸に残った場面があります。ステージに50組・100人の同性カップルが上がり、「結婚の平等(マリッジ・イクオリティ)」を訴えました。手にしたボードには、「愛は勝つ」「Love Wins」の文字。共同代表は、このイベントを単なるお祝いで終わらせたくない、人と人が出会い、互いの違いを知ることで「平等」を社会全体で考えるきっかけにしたい、と語っています。
そして同じ7日、ステージにはマイクを握る政治家が次々と立ちました。立憲民主党の辻元清美参院議員、共産党の小池晃書記局長、社民党の福島瑞穂党首、公明党の竹谷とし子氏、れいわ新選組の天畠大輔参院議員。会派の違いを超えて、それぞれが同性婚の法制化を求めました(各社の報道による)。
| 政党 | 登壇者 |
|---|---|
| 立憲民主党 | 辻元清美 参院議員 |
| 日本共産党 | 小池晃 書記局長 |
| 社民党 | 福島瑞穂 党首 |
| 公明党 | 竹谷とし子 氏 |
| れいわ新選組 | 天畠大輔 参院議員 |
「判決が出る前に」が、なぜ繰り返されたのか
ステージで何度も出てきた「最高裁の判決が出る前に」という言葉。これを理解するには、いま全国で進む裁判の流れを知っておく必要があります。短い説明で済む話ではないので、順を追って整理します。
同性どうしの結婚を認めない民法と戸籍法は、法の下の平等を定めた憲法に反するのではないか。そう問う訴訟が、北海道から九州まで各地で起こされてきました。2024年以降、札幌・東京・福岡・名古屋・大阪と、高等裁判所のレベルで「違憲」あるいは「違憲状態」とする判断が相次ぎます。日本の裁判所は法律を違憲と判断することにとても慎重だといわれてきました。その裁判所がこれだけ続けて踏み込むのは、これまでになかったことです。ただ、流れは一方向ではありません。2025年11月には「合憲」とする判断も出ました。判断が割れたことを受けて、最高裁は2026年3月、これらの訴訟を大法廷に回付し、統一した判断を示すことを決めています。判決そのものは、もう少し先になる見通しです。
ここで効いてくるのが、「立法」と「司法」の関係です。仮に最高裁が違憲と判断しても、それだけで同性婚ができるようになるわけではありません。結婚の制度を定める法律を作り直すのは、あくまで国会の仕事だからです。だからこそ議員たちは、「司法に背中を押される前に、自分たちの手で法律を作る」という順番を口にしました。学術の側からも動きがあり、日本学術会議は2026年6月5日、婚姻の平等に向けた民法改正を提案する見解を公表しています。なぜ日本だけがここまで時間をかけているのか、その背景は日本はなぜ同性婚ができないのかを解説した記事でも詳しく扱っています。
世の中の空気はどうでしょうか。各種の調査では、同性婚に賛成する人がすでに7割前後にのぼるという結果が続いています。世界を見渡せば、30をこえる国と地域が同性婚を認めており、主要7か国(G7)で法制化していないのは日本だけです。立憲民主党、共産党、社民党、れいわ新選組はいずれも公約に法制化を明記し、日本維新の会や国民民主党も前向きな姿勢を示してきました。反対に、自民党は賛否を明言せず、参政党は反対、保守党は公約でふれていません。各党の回答を一つずつ確かめたいときは、「結婚の自由をすべての人に(Marriage for All Japan)」がまとめた各党の同性婚政策が手がかりになります。日本がいまどの位置に立っているのかは、同性婚の日本の現状と世界の動向をまとめた記事でも確かめられます。
住宅みらい会議のブースで出会った、住まいの宿題
結婚の平等は、紙の上の制度の話だけではありません。それは、二人がどこに住み、どう暮らすかという、いちばん身近な場所につながっています。今年の会場の一角に、その「住まい」の課題と正面から向き合うブースがありました。一般社団法人 住宅みらい会議です。今回が初めての出展でした。IRISも、この会議が掲げる「住宅に関わるすべての人に、安心を」という考えに共感し、活動をともにしています。

初めての出展となった、住宅みらい会議のブース。
住宅みらい会議がブースで掲げたのは、LGBTQ+当事者が住まい探しや住宅取得の場面でぶつかりやすい課題です。柱になったのは、同会議が2025年に実施した「不動産業界におけるLGBTQ+当事者への対応実態調査」。同性パートナーとの入居や、トランスジェンダー当事者への対応、家族のかたちへの理解。調査から見えてきた、いまもなお残るいくつもの壁を、パネルで紹介しました。立ち止まってパネルを読みこむ人、写真を撮る人。住まいとLGBTQ+の課題に関心を寄せる場面が、何度もありました。

「当事者」「事業者」「社会」の三つの立場から、住まいの課題を整理したパネル。
展示と並んで、住まい探しの困りごとを尋ねるアンケートも行いました。部屋を探すとき、内見のとき、入居審査や契約のとき。どの場面でいちばん困ったかを、来場者にシールを貼って答えてもらう形です。気さくに応じてくれる人が多く、なかには自分が住まい探しで困った経験を、その場で話してくれる人もいました。

印象に残ったのは、声をかけてくれる人の背景の幅広さです。同性パートナーがいる人やトランスジェンダーの人だけでなく、外国籍の人、外国籍のパートナーを持つ人、同性かつ外国籍のカップル。さまざまな立場の人が、それぞれの「住まいの悩み」を口にしていました。一日目は晴天、二日目は小雨。天気は変わっても、ブースの前で交わされる話の切実さは変わりません。「住まい」が、誰にとっても暮らしの土台なのだと、あらためて実感する二日間でした。

アンケートを通じて、住まいの課題を来場者と一緒に考える時間になりました。
法制化はまだ。でも、いま二人にできること
ここまで読んで、「結局、法律が変わるのを待つしかないのか」と感じた人もいるかもしれません。そんなことはありません。最高裁の判断や法改正を待つあいだにも、二人の暮らしと将来を守るためにできることが、いくつもあります。住まい、家族としての証明、お金と相続。ブースに寄せられた声も、IRISがふだん相談を受けているのも、まさにこの部分です。ここから、今日できることを一つずつ拾っていきます。
パートナーシップ制度を使う
いま多くの自治体が、同性どうしの関係を公的に認めるパートナーシップ制度を設けています。2015年に渋谷区と世田谷区で始まった制度は、2025年5月の時点で全国530の自治体に広がり、人口カバー率は92.5%に達しました(渋谷区と虹色ダイバーシティの共同調査)。法律上の結婚とは違い、相続や税の優遇といった効力まではありません。それでも、できることはあります。たとえば東京都の制度では、都営住宅の申し込みや、病院での面会・手術の同意といった場面で、二人の関係を示す助けになります。仕組みのくわしい中身は、東京都のパートナーシップ宣誓制度を解説した記事にまとめています。
住まいを二人のものとして考える
「ご兄弟ですか」。賃貸の内見で、そう聞かれてとっさにうなずいてしまった。そんな話を、わたしたちは何度も聞いてきました。ブースのアンケートでも、住まい探しの最初の一歩でつまずいた経験は、けっして珍しくありませんでした。住まいは、二人で生きていくうえでいちばん身近な土台です。いまは同性カップルでも部屋を借りやすい物件が増えてきましたし、持ち家を考えるなら、ペアローンや収入合算で二人でローンを組む方法もあります。同性カップルが家を持つことの利点と、気をつけたい点は、同性カップルが家を買うメリットをまとめた記事で具体的に説明しています。
相続・医療・お金の備えをしておく
法律上、同性のパートナーは今もお互いの「相続人」になれません。何も用意しないままどちらかが亡くなると、二人で築いた財産が、ほとんど関わりのなかった親族に渡ってしまうこともあります。だからこそ、元気なうちの備えが効いてきます。
- 遺言を作り、家や預貯金をパートナーに残す意思をはっきり示しておく
- 任意後見契約で、判断能力が落ちたときに支え合えるようにしておく
- 生命保険の受取人にパートナーを指定できるか、確認しておく
とくに、二人で買った家を、片方が亡くなったあとパートナーの手元に確実に残すには、どんな順番で何を用意しておけばいいのか。同性パートナーと相続について、住宅購入後の対策をまとめた記事で、具体的な手立てを紹介しています。
「ふつうに暮らしたいだけ」という声から、プライドはまた来年へ
会場のプライドは、いったん解かれました。でも、そこで交わされた「愛は勝つ」という言葉も、ブースの前で語られた住まいの悩みも、来年のこの時期まで、きっと消えません。プライドのいちばんの力は、「ここにいる」と可視化することです。普段は言いづらいことも、あの芝生の上でなら口にできる。けれど、本当に試されるのは、そのあとの日常のほうかもしれません。当事者でなくても理解し寄り添おうとするアライ(理解者・支援者)の存在が、その毎日を少し息のしやすいものにします。
代々木のステージで議員たちが語った言葉も、全国の裁判所に積み上がってきた訴訟も、もとをたどれば一人ひとりの「ふつうに暮らしたいだけ」という声から始まっています。その一言の重さを、わたしたちは知っています。法律が変わる日は、まだ少し先かもしれません。それでも、二人で住む部屋を決め、これから住む家を思い描き、もしものときにお互いを守る備えをしておくこと。その一つひとつは、判決を待たずに、今日から始められます。お祭りの、その先の暮らしを、IRISはこれからも一緒に考えていきます。代々木で上がった声が、いつか「あたりまえ」になる日まで。






