「もしものとき、残されたパートナーの生活はどうなるのか」。長く一緒に暮らし、家も一緒に選んだ相手がいるなら、一度は頭をよぎったことがあるはずです。結婚している夫婦なら、どちらかが亡くなったあと遺族年金という支えがあります。けれど同性パートナーには、この支えが今も用意されていません。
もしパートナーに先立たれたら、あなたの暮らしはどこまで自分の力で支えられるでしょうか。この記事では、遺族年金の仕組みと同性パートナーが対象外とされている理由、そして状況を動かしつつある2024年の最高裁判決と2028年4月の制度改正が実際には何を変え、何を変えないのかを整理します。そのうえで、制度に頼れない分をどう自分たちで埋めるか、住まいとお金の両面から備え方を見ていきます。
遺族年金とは何か、誰がもらえるのか
遺族年金は、国民年金や厚生年金の加入者が亡くなったとき、その人に生計を支えられていた家族に支給される年金です。自営業者などが加入する国民年金からは「遺族基礎年金」、会社員や公務員などが加入する厚生年金からは「遺族厚生年金」が出て、要件を満たせば両方を受け取れる人もいます。遺族基礎年金は原則として18歳になった年度末までの子がいる配偶者、または子そのものが対象です。遺族厚生年金は対象がもう少し広く、子のない配偶者や、配偶者がいなければ父母、孫、祖父母の順に受給できます。
ここでいう「配偶者」には、婚姻届を出していない事実婚(内縁関係)のパートナーも含まれます。国民年金法や厚生年金保険法は、配偶者・夫・妻について「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者」も含むと定めているためです。長年連れ添った内縁の妻や夫が遺族年金を受け取れるのは、この規定があるからです。
なぜ同性パートナーは対象外なのか
ここまで読んで、「事実婚が対象になるなら、同性パートナーも同じではないか」と思った方もいるでしょう。ところが実務はそうなっていません。日本年金機構が事実婚を認定する際は、生計同一関係・事実婚関係に関する申立書などの提出を求めて審査しますが、この「事実上婚姻関係と同様の事情」という枠組みは、異性間の関係を前提に運用されてきました。同性婚そのものが日本の法律でまだ認められていないことと、この扱いは地続きです。同性婚をめぐる国内の現状を押さえておくと、遺族年金だけが特別扱いされているわけではないことが分かります。
賃貸の内見で「ご兄弟ですか」と聞かれ、とっさに「はい」と答えてしまった。そんな経験を持つ人にとって、パートナーの死という場面でもう一度「他人」として扱われるのは、想像以上にこたえるものです。何十年一緒に暮らしていても、住民票の続柄が「同居人」であっても、いまの制度では請求しても「配偶者」とは認められず、遺族年金を受け取ることはできません。一番つらい場面で、また「赤の他人」として扱われる——そのことに、いま気づいていますか。
転機になった2024年3月26日の最高裁判決
状況が完全に止まっていたわけではありません。2024年3月26日、最高裁判所第三小法廷は、犯罪被害者等給付金の支給をめぐる裁判で重要な判断を示しました。事件の当事者は1994年ごろから同居していた男性同士のカップルで、パートナーが第三者の犯罪によって亡くなったにもかかわらず、遺族給付金は「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当しないとして不支給とされていました。最高裁はこれを覆し、犯罪被害者と同性の者もこの要件に該当し得ると判断しています。日本弁護士連合会の会長談話は、精神的・経済的な打撃の重さは相手が異性か同性かで変わるものではない、という最高裁の理由づけを紹介しています。
この判決には注意も要ります。対象になったのは犯罪被害者等給付金支給法という別の法律で、遺族年金の根拠である国民年金法や厚生年金保険法に、この判断がそのまま適用されたわけではありません。「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」という同じ言い回しが複数の法律に共通して使われているため、今後の議論や運用に影響していく可能性はありますが、2026年時点で日本年金機構が遺族年金の認定基準を変えたという事実は確認できていません。判決は扉を開きかけた、という段階です。
2028年4月の遺族厚生年金制度改正、同性パートナーには関係あるのか
もう一つ動いているのが、2025年6月に成立した年金制度改正法にもとづく、2028年4月施行の遺族厚生年金の見直しです。ニュースで見かけた方も多いと思いますが、これは同性パートナーの受給資格を広げるものではありません。目的も中身も違うので、混同しないよう整理しておきます。
変わること
今回の改正は、遺族厚生年金にずっと残っていた男女差をなくすことが目的です。これまで、子のいない夫は年齢にかかわらず遺族厚生年金を受け取れませんでしたが、2028年4月からはこの年齢要件がなくなり、夫も新たに5年間の有期給付を受けられるようになります。5年間には新設の加算がつき、給付額はいまの遺族厚生年金のおよそ1.3倍です。すでに同じような給付を受けてきた妻の側は、いきなり基準が変わるわけではなく、経過措置を挟みながら数十年かけて夫と同じ基準に揃っていく設計になっています。子のない60歳未満の配偶者にかかっていた年収850万円未満という収入要件も、この範囲では撤廃されます。
変わらないこと
一方で、誰が「配偶者」として認められるかという入り口の部分は、今回の改正の対象に入っていません。厚生労働省が公表している見直しの内容を見ても、焦点は受給できる年数や年齢、給付額であって、事実婚の認定範囲そのものには触れていません。つまり2028年になっても、同性パートナーが自動的に遺族厚生年金の対象になるわけではないということです。
| 現行制度 | 2028年4月以降 | |
|---|---|---|
| 子のない60歳未満の夫 | 遺族厚生年金の対象外 | 年齢を問わず5年有期の対象に |
| 子のない60歳未満の妻 | 30歳未満は5年有期、30歳以上は原則終身 | 経過措置を経て段階的に夫と同じ基準へ |
| 同性パートナーの扱い | 配偶者として認定されない | 変更なし |
パートナーシップ制度でも遺族年金は変わらない
自治体のパートナーシップ制度を使えば何とかなるのでは、と考える方もいますが、こちらも遺族年金には届きません。パートナーシップ制度でできること・できないことで触れているとおり、この制度は法的な婚姻関係をつくるものではなく、公営住宅への入居や病院での家族としての扱いなど、自治体ごとの行政サービスにとどまります。社会保険の給付は国の制度なので、自治体の証明書があっても遺族年金の受給要件は満たせません。
それでも、自治体が独自に一歩を踏み出す例は出てきています。世田谷区は2023年7月から、区の要請を受けて水防や応急措置の業務にあたった人が亡くなった場合の死亡補償一時金を、同性パートナーにも支給する独自の仕組みを始めました。2025年には殉職した消防団員の遺族補償にも対象を広げる検討をしていると報じられています。ただしこれらは世田谷区が独自に用意した公務災害への補償であり、全国共通の遺族年金とは別の枠組みです。住んでいる自治体によって受けられる支援がここまで変わってしまってよいのでしょうか。
今からできる、お金の備え
制度が追いつくのを待つだけでは、暮らしは守れません。遺族年金をあてにできない前提で、いま二人でできる備えを四つ挙げます。
生命保険の受取人をパートナーに指定する
複数の生命保険会社が、同性パートナーを死亡保険金の受取人として認めるようになっています。会社によって必要な証明書類や条件は異なるので、同性パートナーの生命保険についてまとめた記事で具体的な違いを確認しておくと選びやすくなります。
個人年金保険やiDeCoで「自分の年金」を厚くする
パートナーの遺族年金が期待できない以上、公的年金だけに頼らず、自分自身が老後に受け取る年金を個人年金保険やiDeCoで積み増しておく発想が大事になります。どちらも、いま積み立てたお金を将来の自分の年金として受け取る仕組みです。ただしiDeCoの死亡一時金は受け取れる人の範囲が法令で決められていて、同性パートナーを自由に指定できるとは限りません。パートナーにお金を残す目的なら、受取人を柔軟に選びやすい生命保険や個人年金保険の死亡保障のほうを優先して検討してください。
収入保障保険で、住宅ローンのあとの生活費を考える
ペアローンや収入合算で家を買った場合、団体信用生命保険は契約者の債務を消してくれますが、遺されたパートナーのその後の生活費までは保障しません。ペアローンと収入合算の違いを踏まえたうえで、月々の生活費を一定期間補う収入保障保険を組み合わせておくと、団信でカバーしきれない部分を埋められます。
遺言・任意後見・パートナーシップ契約公正証書を組み合わせる
そもそも同性パートナーには法定相続権がありません。相続の順位は子、次に親、それもいなければ兄弟姉妹と決まっていて、パートナーはこの並びに入らないからです。同性パートナーと相続で解説しているとおり、遺言や任意後見契約、パートナーシップ契約公正証書を組み合わせておけば、財産を渡すことも、判断能力が落ちたときの意思決定をパートナーに託すこともできます。遺族年金の代わりにはなりませんが、お金と暮らしを守る土台にはなります。
まとめ
同性パートナーは、いまも遺族年金の「配偶者」として認められていません。2024年の最高裁判決は犯罪被害者等給付金の枠内での判断にとどまり、2028年4月の遺族厚生年金改正も男女差の解消が目的で、同性パートナーの受給資格を広げるものではありません。自治体のパートナーシップ制度があっても、この壁は変わらないままです。
それでも、今日、明日で制度が変わるわけではないからこそ、生命保険の受取人指定や個人年金・iDeCoでの備え、団信だけに頼らない収入保障保険、遺言や任意後見といった手を、いま二人で一つずつ打っておく意味があります。制度の変化を追いかけながら、自分たちで埋められる部分から埋めていく。その両輪で考えてみてください。






