「受領証、取れました」。窓口でそう告げられて封筒を受け取った帰り道、ふと足が止まる人がいます。——パートナーシップ証明は自治体が明確に二人の関係性を確認し、宣誓などを受領したことを証明する書類、でもこれからどこで、どう使えるんだろう。パートナーシップ制度は、全国560を超える自治体に広がり、日本人口の9割以上をカバーするところまで来ました。数年前まで「うちの街にはない」だったものが、いまは「ある前提」で話が進みはじめています。
そうなると、知りたいことも変わります。「制度って何?」から、「どう申請して、取ったあと何に使えるのか」へ。この記事では、申請の手続きの流れ(宣誓型と証明型の違い、必要書類、費用、かかる期間)と、受領証を手にしたあとに実際に使う場面を、住まい・医療・暮らし・職場に分けて具体的にまとめます。引っ越したときにどうなるか、制度では「できないこと」をどう別の手続きで補うかも、最後に触れます。
パートナーシップ制度は、いまどこまで広がったのか
まず、現状を確認してみましょう。Marriage For All Japanの導入自治体データベースによると、2026年7月時点で制度を導入した自治体は563。人口カバー率は93.7%に達し、33の都道府県では全域で制度が使えるようになっています。長らく定点調査の役割を果たしてきた渋谷区と虹色ダイバーシティの共同調査(2025年5月末時点の調査が最終回)では、530自治体・カバー率92.5%、パートナー登録は9,836組。1年あまりで30以上の自治体が増えた計算です。
ただし、ここで一つ押さえておきたいことがあります。パートナーシップ制度は法律上の結婚ではありません。自治体がそれぞれの条例や要綱にもとづいて運用する制度で、戸籍には載らず、相続や税制のような国の制度には直接つながらないのが原則です。だからこそ「取ってどう使うか」を知っておくことが、制度を生かす鍵になります。制度そのものの意味や結婚との違いは、パートナーシップ制度とは?結婚との違いを解説した記事で詳しく説明しています。
申請の手続き — 2つのタイプと、共通の流れ
手続きは、自治体によって大きく2つのタイプに分かれます。書類を出して宣誓する「宣誓型」と、公正証書などを用意して証明を受ける「証明型」です。数のうえでは宣誓型が多数派で、費用も手間も軽め。まずはこちらから見ていきます。
宣誓型(多くの自治体・書類提出のみ・原則無料)
いま導入されている制度の大半が、この宣誓型です。二人が「パートナーである」と宣誓し、自治体が受領証や受領カードなどを交付します。公正証書のような特別な書類は要らず、費用も原則かかりません(受領証の発行手数料として数百円程度を求める自治体はあります)。流れはおおむね次のとおりです。
- 自治体の窓口に事前予約する(オンラインで予約・手続きできる自治体も増えています)
- 必要書類を用意する(住民票の写し、本人確認書類、戸籍証明書や独身証明書など、配偶者がいないことを確認する書類など)
- 二人そろって宣誓・届出をする
- 受領証・受領カードなどが交付される(即日〜10日程度)
たとえば東京都は、この手続きを原則オンラインで完結できます。専用の届出等管理システムにログインして書類を提出すると、原則10日以内(土日祝・年末年始を除く)に受理証明書が交付されます。対象になるのは、双方が成年で、配偶者がおらず、近親者どうしでなく、二人のどちらかが都内に在住・在勤・在学している場合です。詳しい要件は東京都パートナーシップ宣誓制度の届出案内で確認できます。
証明型(渋谷区など・公正証書が必要)
全国で最初に制度を始めた渋谷区は、少し性格が違います。二人の関係を示す合意契約に関する公正証書などを用意したうえで申請し、区が証明書を交付する「証明型」です。公正証書の作成には別途費用がかかりますが、渋谷区にはその作成費用の一部を助成する仕組みがあります。2024年(令和6年)4月からは、戸籍上の性別が異なるカップルも利用できるようになりました。制度の詳細は渋谷区パートナーシップ証明のページにまとまっています。
必要書類・費用・期間の目安
2つのタイプを並べると、準備するものと費用の差が見えてきます。自分の住む自治体がどちらの型か、窓口の案内やサイトで先に確かめておくと、当日あわてずに済みます。
| 宣誓型(多くの自治体) | 証明型(渋谷区など) | |
|---|---|---|
| 費用 | 原則無料(受領証の発行に数百円程度の場合あり) | 公正証書の作成費用が別途必要(助成制度あり) |
| 主な必要書類 | 住民票の写し、本人確認書類、独身を確認できる書類など | 宣誓型の書類に加え、合意契約に関する公正証書など |
| 手続きの形 | 事前予約 → 書類提出 → 宣誓 → 受領証交付 | 事前相談 → 書類・公正証書を準備 → 申請 → 証明書交付 |
| 交付までの目安 | 即日〜10日程度(東京都はオンラインで原則10日以内) | 後日交付(準備期間を含めると数週間) |
必要書類は自治体ごとに細かく違います。独身であることの確認方法一つとっても、戸籍抄本を求めるところもあれば、宣誓書のなかで申告する形のところもあります。予約のときに「当日、何を持っていけばいいですか」と一言聞いておくのが、いちばん確実です。
申請の前に、決めておくとスムーズなこと
手続きそのものは難しくありません。それでも当日になって「あの書類がない」「これはどう書けばいいの」と止まりがちなところが、いくつかあります。予約の前に次の点を二人で決めておくと、窓口では驚くほど早く終わります。
一つは、書類をいつまでに取り寄せるかです。住民票の写しや、独身であることを確認する書類は、役所へ取りに行く手間がかかります。郵送なら届くまで数日はみておくと安心です。もう一つは、受領証の形と枚数です。自治体によって、紙の証明書だけのところ、カード型を選べるところ、複数枚を発行してくれるところがあります。提示する場面が多そうなら、カード型や予備の交付ができるかを、事前に聞いておくとよいでしょう。氏名の表記をどうするか——通称を使うのか、戸籍上の名前にするのか——も、証明書に載る大事な情報です。二人でどう記載するかを先にそろえておくと、あとで直す手間が省けます。
受領証を取ったあと、実際に「使う」場面
ここからが本題です。受領証は、持っているだけでは何も起きません。必要な場面で「二人はパートナーです」と示して、はじめて力を持ちます。どんな場面で何を見せるのかを、住まい・医療・暮らしと職場の順に見ていきます。
住まい — 公営住宅、賃貸契約、住宅ローン
受領証がもっとも身近に効くのが、住まいです。これまで公営住宅の多くは「親族であること」を入居の条件にしていて、同性の二人は申し込みの窓口ではじかれることが珍しくありませんでした。制度が広がったいまは、パートナーシップ制度の利用者を、親族に準じる者として入居対象に含める公営住宅が増えています。対象住宅や収入要件などは、各自治体の募集案内で確認が必要です。民間の賃貸でも、審査通過や契約を保証するものではありませんが、二人の関係性を説明する資料として利用できます。「ご兄弟ですか」と聞かれて言葉に詰まる——そんな場面が、一枚の証明で変わることがあります。
住宅の購入では、住宅ローンの選択肢も広がります。パートナーシップ証明書や公正証書などを提出することで、同性パートナーを収入合算やペアローンの対象とする金融機関があります。二人でローンを組む具体的な方法や条件は、同性パートナー向け住宅ローンを解説した記事にまとめています。
医療・緊急時 — 面会や病状説明の場面
もし明日、パートナーが倒れて救急搬送されたら。あなたは病院で「ご家族の方ですか」と聞かれて、なんと答えますか。受領証は、こうした場面での説明を助けます。制度を持つ自治体の多くでは、医療機関での面会や病状説明、手術の同意の場で、パートナーを家族に準じて扱うよう求めています。ただし、対応は病院ごとに差があるのも事実です。実際の運用や現場の様子は、パートナーシップ制度と病院での対応をまとめた記事も参考になります。
暮らしと職場 — 家族割、保険、福利厚生
日々の暮らしや働く場面でも、受領証が「二人は家族」を示す材料になります。使える場面は少しずつ増えていて、代表的なものは次のとおりです。
- 携帯電話の家族割引を、二人で適用するときの資料となる
- 生命保険の受取人指定に際し、パートナーとの関係を確認する資料として使える場合がある
- 勤務先の慶弔休暇や家族手当などの社内制度を申請する
とくに職場の制度は、会社がどこまで対応しているかで変わります。受領証があっても社内規程が追いついていなければ使えませんし、逆に、証明がなくても独自に認める会社もあります。介護休業法上の対象家族には、事実婚の配偶者も含まれます。ただし、同性パートナーが対象となるかについては、関係性の確認方法や勤務先の運用が問題になることがあります。企業側の対応の広がりは、パートナーシップ制度に企業がどう対応しているかをまとめた記事で紹介しています。勤め先に制度があるか、まずは就業規則を確かめるところからです。
引っ越したとき — 有効期限と自治体間の連携
ここで、見落としやすい点に触れておきます。パートナーシップ制度は自治体の制度なので、その自治体から転出すると効力を失うのが原則ですが、制度によって若干異なります。転出を返還・失効事由とする自治体がある一方、在勤・在学要件によって継続できる制度や、自治体間連携により手続きを簡略化できる場合もあります。つまり、引っ越した先で使い続けたいなら、転入先の自治体であらためて確認手続きが必要です。せっかく取った受領証が、引っ越しで使えない、そんな事態を防ぐために、転居の前後で制度の扱いを確認しておくと安心です。
もっとも、この不便を減らす動きも進んでいます。都道府県と区市町村のあいだや、近隣の自治体どうしで制度を「連携」させ、転居しても手続きを簡略化できる仕組みが広がってきました。連携している自治体の間なら、一から宣誓し直さずに継続できる場合があります。転勤や引っ越しの予定があるなら、転入先が連携の対象かどうかを、早めに窓口へ問い合わせておくとよいでしょう。
「できないこと」は、別の手続きで補える
最後に、制度の限界と、その埋め方です。パートナーシップ制度は生活の多くの場面を助けてくれますが、法律婚と同じではありません。とくに次のことは、受領証だけではカバーできません。
まず相続です。パートナーは法律上の相続人になれないため、何も準備しないままだと、財産は子がいれば子へ、いなければ本人の親や兄弟へ渡ります。ここは遺言や公正証書で備えるのが現実的な対策です。二人で買った家をどう守るかも含めて、同性パートナーと相続について解説した記事に具体策をまとめています。ほかにも、税の配偶者控除が受けられず健康保険の扶養にも入れないこと、在留資格(配偶者ビザ)が原則認められないこと、子どもの共同親権が持てないことなどがあります。受領証で「できること」と「できないこと」の全体像は、パートナーシップ制度でできること・できないことを整理した記事で一覧できます。
言い換えると、パートナーシップ制度は「土台」です。その上に、遺言や任意後見といった手続きを重ねることで、二人の暮らしはより確かなものになります。制度を取ることは、ゴールではなく最初の一歩なのです。
まとめ — 取って、使って、足りない分を補う
パートナーシップ制度は、人口の9割超がカバーされるところまで広がりました。申請は、宣誓型なら書類を用意して窓口へ、証明型なら公正証書を添えて、というのが基本の流れです。取ったあとは、住まい・医療・暮らし・職場の場面で「二人は家族です」と示す一枚として働きます。そして、相続のように制度では届かない部分は、遺言などの手続きで補っていく。この順番を知っておくだけで、制度の生かし方はずいぶん変わります。まずは、自分の住む自治体がどちらの型で、何を持っていけばいいのか。その確認から始めてみてください。






