家族や友達、親友など、大切な人へのカミングアウトは緊張してしまう人も多いのではないでしょうか。身近な存在だからこそ自分自身のことを知ってもらいたいし、だからといって受け入れられるかわからない。そんな不安の中、なかなかカミングアウトを決心できない人は多いはずです。

『トランスジェンダーとして生きてきた軌跡 〜私らしく生きる選択 - 性別に違和感を持ってから私が手術を受けるまで』vol.14では、トランスジェンダー女性の齋藤亜美さんがお母さんにカミングアウトした頃の話を話してもらいました。

LGBTお部屋探し

両親へのカミングアウト

ーご両親との関係性について教えてください。

お母さんとはとても仲が良く、LINEでやり取りをしたり私のインスタグラムを見たりしています。一方で、お父さんは典型的な昭和の人という感じで、少し厳しいところがあります。

お母さんにはカミングアウトしたのですが、お父さんにはまだできていなくて。一緒に「いつお父さんに言おうか」と話しているうちに、もう手術が終わってしまった、という感じです。

ーお父さんは今の齋藤さんを知らないのですね。

もう5〜6年は会っていないと思います。その時の私は今とは全く違う状態でした。父は私がMtFであることに気づいているのかどうかもわかりません。あまり話さない人なので、薄々知っているのではないかという話題すら出ません。だから、結局だらだらと時間が過ぎてしまいました。

ーお父さんへのカミングアウトについて考えていることはありますか。

タイミングが合えばカミングアウトしようとは思っていますが、どこで言うべきか迷っているうちに、結局言わずに過ごしてしまう気もします。たしかにお父さんは家族ではありますが、今のところ別に会わなくても普通に生活できています。

なので一番困るのは、冠婚葬祭のような大きな出来事があった時なのかなと。でも、その時はその時で対処するしかないと考えています。

カミングアウトは1人で生きていける環境を整えてから

ーお母さんにカミングアウトした時のことを教えてください。

お母さんへのカミングアウトは4年前、夏の終わり頃でした。もともと女性として働ける職場で仕事が決まったらカミングアウトしようと思っていました。理由としては、トランスジェンダーとして働ける場所を自分で見つけて、ちゃんと生きていけるということを証明したかったからです。なので、私はIRISに就職してから母親へのカミングアウトを決意していました。

ちょうど9月がカミングアウトデーだったので、そのタイミングでカミングアウトしようと思ったものの、何をどうやって言おうかと非常に悩みました。何を言ったらいいかわからず、まとまりがつかなくなりそうだったので、長文のLINEを送ったのですが既読無視されてしまって。

どう反応すればいいのかわからなかったのでしょう。それでもちゃんと読んでくれて、後になってお母さんから「思い当たる節があった」と言われました。その後、11〜12月ぐらいに電話する機会があり「どう返事をすればいいのかわからなかった」と言われましたが、その時の会話でお母さんが理解してくれたことがわかりました。一連の流れはこんな感じですね。

ー具体的にどんなメッセージを送ったのでしょうか。

私が独り立ちしてからも、実家の部屋には女性もののメイク道具や服などがあったと思います。ですが、一人暮らしをしている間に、お母さんがそれらを勝手に片付けてしまったので、そういうものがあるということはなんとなく知っていたと思います。それを含めて、実はそれがトランスジェンダーであるからだということを伝えました。

そして、「そういった自分でも働ける場所を見つけたので大丈夫だし、理解してくれる友達もいるから安心してね」とメッセージを送りました。私は自立して生きていけるようになれば、心配しないだろうと思っていました。ただ家族なので一応報告します、という感じで伝えましたね。事後報告にはなってしまいましたが、それでもいいんじゃないかと思ってくれる人だと思ったので、そういう準備をしてから伝えようと思ったという感じです。

母親と縁が切れてしまう可能性もゼロではないと思ったからこそ、自分1人で生きていける基盤を作ってからカミングアウトした方が、自分の精神衛生上も良かったと思います。

LGBTお部屋探し

「解放された感じがする」

ーお母さんの反応はいかがでしたか。

最初は急に電話がかかってきたので、少し驚きました。その時にお母さんが話した内容は、お父さんが少し体調を崩して入院したという報告でした。その後も私がMtFであることには触れず、「仕事は大丈夫?」など、日常の話をしました。そして、やっと私がMtFであることに触れ、「あんたがそれでいいならいいよ」と言ってくれたのです。ほっとしたのを覚えています。

その後もお母さんとは何度か会いました。正直、見た目が変わっているし、会いにくいなという気持ちはありました。ですが、お母さんは「いや、あんた、そのまんまだよ」と言ってくれました。よくも悪くも「あなたはあなた」という風に言ってくれたのは嬉しかったです。それでも「いやいや、全然変わったでしょ」と突っ込みたくなる気持ちもあったので、嬉しい反面、ちょっと悔しい気持ちがあったのかなと思います。

ーカミングアウトする前に当事者であることがやんわり伝わるような言動をとる人もいますよね。齋藤さんはカミングアウト前にしていたことはありますか。

逆に私はあまり出さないようにしていました。自分がそう思われると気持ち悪いと思われるのが嫌だったからです。ただ、お母さんは多分気づいていたと思います。お姉ちゃんの服を着たり、私の部屋には女性用の服があったので。

ーカミングアウトをしてから心境の変化はありましたか。

トランスジェンダーで悩んでいた自分から解放された感じがします。以前のように、結婚や親孝行のために自分を抑えるプレッシャーや責任から解放されたことも大きいです。今ではそれを隠さずに生きることで、結婚などについてお母さんから何も言われなくなったので、それがすごく楽に感じます。

ートランスジェンダーは性表現が関わることもあり、カミングアウトがより身近な存在なのだと感じました。

たしかにカミングアウトと実生活は密接に結びついていますね。トランスジェンダーとして生活することは、強制的にカミングアウトされたようなものです。細かいことですが、LINEのアイコンや名前が変わるだけで、トランスであることが知られる可能性もあります。

「性別」ではなく「人」として

ーカミングアウトするタイミングなど、気をつけていたことはありますか。

私はLINEのアイコンや入っているグループに関して、昔から変えていません。そのためカミングアウトしていない人たちとも繋がっていたり、以前のバイトのグループラインなどが残っていたりして、そこで仲の良い人たちからたまに結婚の連絡が来ることがありますね。その時は「今はもう変わってるけどいい?」という感じでラフに伝えています。

最近でいうと、例えば昔一緒にダンスをやっていたチームのメンバーから結婚の連絡が来たことがあり、「今は女性になっているけれどもそれでも大丈夫?」と連絡しました。なので、ノリでカミングアウトすることもあります。

ーラフにできるのには理由が?

重く考えすぎると言いづらくなったり、相手も重く受け止めてしまうことがあります。なので、ラフに言う方が相手も受け入れやすいことが多いですし、気軽に伝えることで円滑にコミュニケーションができると考えています。

会いたいと言ってくれる人たちは性別よりも、あなた自身を人間として好きでいてくれる人たちです。なので、そういった人たちには性別の変化や過去の経験をラフに伝えても大丈夫だと感じてもらえると思っています。