多様な性のあり方を認める社会へと変化している中で、LGBTsファッションの世界はより豊かで多彩になっています。

本記事では、LGBTsファッションの基本的な知識から、具体的なブランドや選び方、社会的な意義まで、幅広く解説していきます。

LGBTsファッションとは

LGBTsファッションとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、そしてその他の性的マイノリティの人々が、自分らしさを表現するためのファッションスタイルの総称です。これは単に特定の服装を指すのではなく、個人の性自認や性的指向を尊重し、自由に自己表現できるファッションのあり方を意味しています。

LGBTsファッションの特徴として、従来の「男性向け」「女性向け」という枠組みにとらわれない自由さがあります。例えば、トランスジェンダーの方が自分の性自認に合った服装を選んだり、ジェンダーフルイドの方が日によって異なるスタイルを楽しんだりすることも含まれます。また、レインボーカラーやプライドフラッグの色を取り入れることで、LGBTsコミュニティへの帰属意識を表現することもあります。

関連リンク:LGBTQとは? さまざまなセクシュアリティの種類を一覧で紹介

LGBTsファッションの歴史と背景

LGBTsファッションの歴史は、1969年6月28日にニューヨークで起こった「ストーンウォールの反乱」にその起源を見つけることができます。この出来事をきっかけに、LGBTsコミュニティが自分たちの権利と尊厳を主張するようになり、ファッションも抗議の手段として使われるようになりました。

1970年代に入ると、LGBTsの象徴としてレインボーフラッグが誕生しました。ギルバート・ベイカーによって制作されたこの旗は、多様性と団結を表現するシンボルとなり、ファッションにも取り入れられるようになりました。現在では6色のレインボーフラッグが広く使われていますが、当初は8色で構成されていました。

1980年代から1990年代にかけて、LGBTsコミュニティ内でも多様なファッションスタイルが生まれました。ゲイコミュニティでは「イカニモ系」と呼ばれるスタイルが人気となり、レズビアンコミュニティでは実用的で快適な服装が好まれるようになりました。トランスジェンダーの方々は、自分の性自認に合った服装を求めるようになり、ファッション業界にも影響を与えました。

関連リンク:

ジェンダーレス・ユニセックスファッションの台頭

近年、性別に関係なく着用できるジェンダーレスファッションやユニセックスファッションが注目を集めています。これらのファッションは、従来の「男性らしさ」「女性らしさ」という概念にとらわれず、すべての人が快適に着られるように設計されています。

ジェンダーレスファッションの特徴として、シンプルで機能的なデザイン、中性的な色合い、様々な体型にフィットするシルエットなどが挙げられます。多くのブランドが、XSからXXLまでの幅広いサイズ展開を行い、すべての人が自分に合うサイズを見つけられるよう配慮しています。

日本でも「8marbull(エイトマーブル)」のように、LGBTsのインフルエンサーがプロデュースするジェンダーフリーブランドが登場しています。これらのブランドは「EVERY DAY HAPPY」をコンセプトに、自分らしさを大切にしてファッションで自己表現したいすべての人を対象としています。

海外のLGBTsフレンドリーブランド

海外では多くのブランドがLGBTsコミュニティをサポートしています。例えば「TomboyX」は、性別に関係なくすべての人の体にフィットするアンダーウェアを展開し、現在はスイムウェアやナイトウェアまでシリーズを拡大しています。「Kirrin Finch」は、女性やノンバイナリーの方向けのオーダーメイドスーツを提供し、あらゆる体形に合う正装を作成しています。

「Aday」は、LGBTs、BIPOC(黒人、先住民、有色人種)、障がい者をスタッフに持つ多様なチームによって設立されたサステナブルブランドです。売り上げの一部を顧客が選んだ団体に寄付する取り組みも行っており、社会貢献と環境配慮を両立させています。

プライドファッションとレインボーアイテム

6月のプライド月間には、多くのブランドがレインボーカラーを取り入れた特別なアイテムを発売します。これらの「プライドコレクション」は、LGBTsコミュニティへの支援を表明するとともに、売り上げの一部をLGBTs支援団体に寄付することが一般的です。

ナイキは2012年から毎年「BE TRUE」コレクションを発売しており、2019年にはレインボーフラッグの考案者ギルバート・ベイカーへのオマージュとして、オリジナルの8色レインボーをデザインに取り入れました。コンバースは、トランスジェンダー・プライド・フラッグをテーマにしたモデルを初めて発表し、パステルピンクとブルーを配置したデザインが話題となりました。

アップルは毎年、Apple Watch用のレインボー柄プライドエディションバンドを発売しています。これは2016年にサンフランシスコプライドで同社従業員に配ったモデルが好評だったため、2017年から一般発売されるようになりました。収益の一部はLGBTs支援団体に寄付されています。

ブランド名 コレクション名 特徴 寄付先
ナイキ BE TRUE 8色レインボーデザイン LGBTs支援団体
コンバース プライドコレクション トランスプライドフラッグ 各種LGBTs団体
アップル プライドエディション レインボーApple Watchバンド LGBTs支援団体
ラルフローレン プライドコレクション カシミアセーター・ポロシャツ ストーンウォール財団

関連リンク:トランスジェンダーフラッグは水色、ピンク、白?その歴史や意味は

トランスジェンダーとファッション

トランスジェンダーの方々にとって、ファッションは自分の性自認を表現するための重要な手段です。身体的な性と性自認が異なる場合、服装によって自分らしさを表現し、社会的な性別認識を調整することができます。

FtM(Female to Male)の方の場合、胸部を平らに見せるバインダーや、男性的なシルエットの服装を選ぶことが多くあります。MtF(Male to Female)の方の場合、女性らしいシルエットの服装や、体型を補正するアンダーウェアを使用することがあります。

近年は、トランスジェンダーの方々のニーズに特化したファッションブランドも登場しています。これらのブランドは、単にデザインが美しいだけでなく、機能性も重視しており、着用する人が快適に過ごせるよう配慮されています。

また、学校の制服問題も重要な課題の一つです。多くの学校で性別に基づいた制服が定められていますが、トランスジェンダーの生徒にとっては大きな負担となることがあります。一部の学校では、性別に関係なく選択できる制服の導入が始まっています。

関連リンク:

ドラァグクイーンファッションとクィアカルチャー

ドラァグクイーンのファッションは、LGBTsファッション文化の中でも特に華やかで表現力豊かな分野です。派手なドレス、高いヒール、劇的なメイクを特徴とするドラァグファッションは、ジェンダーの境界を超えた芸術的表現として高く評価されています。

ドラァグクイーンファッションの歴史は古く、1880年代にはウィリアム・ドーシー・スワンという元奴隷の男性が自宅でドラァグボールを開催していました。現在では「ル・ポールのドラァグ・レース」などのテレビ番組により、ドラァグカルチャーが世界中で注目を集めています。

日本でも新宿二丁目を中心に、多くのドラァグクイーンが活動しています。「double peach」「BALL」「Brush」などのイベントでは、ドラァグクイーンによるショーケースが行われ、多くの人々が集まります。これらのイベントは、LGBTsコミュニティの文化的中心地としての役割も果たしています。

関連リンク:

LGBTsファッションの購入方法と選び方

LGBTsファッションを購入する際には、いくつかの選択肢があります。オンラインショップでの購入は、プライバシーを保護しながら幅広い選択肢から選べるメリットがあります。多くのLGBTsフレンドリーブランドが独自のオンラインストアを運営しており、詳細なサイズガイドやフィッティングアドバイスを提供しています。

実店舗での購入を希望する場合は、LGBTsフレンドリーな店舗を選ぶことが重要です。スタッフがLGBTsに関する知識を持ち、すべての顧客を尊重して接客する店舗では、安心して買い物を楽しむことができます。東京では新宿二丁目周辺や渋谷、原宿などに、LGBTsフレンドリーな店舗が多く存在します。

サイズ選びのポイント

LGBTsファッションでは、従来のサイズ表記が当てはまらない場合があります。特にトランスジェンダーの方や、性別に関係なく服を選びたい方にとって、正確なサイズ選びは重要です。

多くのLGBTsフレンドリーブランドでは、詳細な寸法表を提供しており、胸囲、ウエスト、ヒップだけでなく、肩幅や袖丈まで記載されています。また、カスタマーサポートでは、個別のフィッティング相談にも対応しています。

バインダーや体型補正アイテムを使用する場合は、それを着用した状態でのサイズを測ることが推奨されます。また、季節や体調による変化も考慮し、少し余裕のあるサイズを選ぶことが快適な着用につながります。

職場でのLGBTsファッション

職場でのファッション選びは、LGBTsの方々にとって特に慎重な検討が必要な場面です。自分らしさを表現したい気持ちと、職場での立場や人間関係への配慮を両立させる必要があります。

近年、多くの企業がダイバーシティ&インクルージョン(多様性と包括性)を重視するようになり、服装規定も柔軟になってきています。一部の企業では、性別に関係なく選択できる制服や、個人の性自認に基づいた服装を認める方針を採用しています。

職場でのLGBTsファッションを考える際のポイントとして、まず会社の服装規定を確認することが重要です。その上で、自分の立場や職種、顧客との接触頻度などを考慮し、適切なバランスを見つける必要があります。

また、徐々にスタイルを変化させることで、周囲の理解を得やすくなる場合もあります。急激な変化よりも、少しずつ自分らしいスタイルを取り入れていくことで、職場の雰囲気を保ちながら自己表現を実現できます。

LGBTsファッションの社会的意義

LGBTsファッションには、個人の自己表現を超えた大きな社会的意義があります。まず、可視性の向上という点で重要な役割を果たしています。LGBTsの人々が自分らしいファッションを楽しむことで、社会におけるLGBTsの存在が可視化され、理解促進につながります。

また、ファッションを通じてLGBTsの人々同士がつながりを感じることも重要な意義の一つです。プライドパレードやLGBTsイベントでレインボーカラーのアイテムを身に着けることで、コミュニティへの帰属意識を表現し、連帯感を醸成することができます。

さらに、LGBTsファッションは社会の固定観念に挑戦する役割も持っています。従来の「男性らしさ」「女性らしさ」という概念にとらわれないファッションが広まることで、すべての人がより自由に自己表現できる社会の実現に貢献しています。

教育の観点からも、LGBTsファッションは重要な意味を持ちます。多様なファッションスタイルが受け入れられる環境を作ることで、若い世代がより開放的で包括的な価値観を身につけることができます。

関連リンク:東京LGBTイベントマップ:プライドパレードから交流会まで全て紹介

LGBTsファッションコミュニティとイベント

日本各地では、LGBTsファッションに関連するコミュニティやイベントが開催されています。東京では新宿二丁目を中心としたエリアで、多くのファッションイベントが行われています。これらのイベントでは、最新のLGBTsファッショントレンドの紹介や、ファッションショー、ワークショップなどが開催されます。

また、オンラインコミュニティも活発に活動しており、SNSやファッション系ウェブサイトを通じて、情報交換やスタイリングのアドバイスが行われています。これらのコミュニティでは、ブランド情報、セール情報、着こなしのコツなどが共有され、LGBTsファッションを楽しむ人々の支援となっています。

ファッションブロガーやインフルエンサーも、LGBTsファッション文化の発展に大きく貢献しています。彼らの投稿やレビューは、多くの人々のファッション選びの参考となり、新しいブランドやスタイルの発見につながっています。

関連リンク:

サステナブルなLGBTsファッション

近年、環境への配慮と社会的責任を重視するサステナブルファッションが注目を集めています。LGBTsファッション業界でも、この流れを受けて多くのブランドが持続可能な取り組みを行っています。

サステナブルなLGBTsファッションの特徴として、環境に優しい素材の使用、エシカルな生産プロセス、長期間着用できる品質の追求などが挙げられます。また、多くのブランドが売り上げの一部をLGBTs支援団体や環境保護団体に寄付しており、購入することで社会貢献にもつながります。

古着やヴィンテージアイテムの活用も、サステナブルなLGBTsファッションの一環として注目されています。古着は個性的なアイテムが多く、他の人とは違うスタイルを楽しむことができます。また、資源の有効活用という観点からも環境に優しい選択肢です。

リサイクルやアップサイクル(不要になった物を新しいアイデアで生まれ変わらせること)の技術を活用したファッションアイテムも増えています。これらのアイテムは、環境への配慮と創造性を両立させた新しいファッションの形として評価されています。

LGBTsファッションの未来展望

LGBTsファッションの未来は、技術の進歩と社会の変化によってさらに多様化していくことが予想されます。3Dプリンティング技術の発達により、個人の体型に完全にフィットするカスタムメイドの服が、より手軽に製作できるようになるでしょう。

人工知能(AI)を活用したパーソナルスタイリングサービスも発展しており、個人の好みや体型、ライフスタイルに基づいて最適なファッション提案を受けることができるようになります。LGBTsの方々にとって、これらの技術は自分らしいスタイルを見つけるための強力なツールとなるでしょう。

バーチャルリアリティ(VR)技術の活用も期待されています。VR試着システムにより、実際に店舗に行かなくても様々な服を試着し、自分に似合うかどうかを確認できるようになります。これは、プライバシーを重視するLGBTsの方々にとって特に有用なサービスとなるでしょう。

また、社会全体の意識変化により、学校や職場での服装規定もより柔軟になることが予想されます。性別に関係なく選択できる制服や、個人の性自認を尊重した服装規定が標準的になる日も近いかもしれません。

ファッション業界全体でも、ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みがさらに進展することが期待されます。多様なモデルの起用、サイズ展開の拡充、アクセシビリティの向上など、すべての人がファッションを楽しめる環境づくりが進むでしょう。

まとめ

LGBTsファッションは、単なる服装の選択を超えて、自己表現、アイデンティティの確立、コミュニティとのつながりを深める重要な手段です。ストーンウォールの反乱から始まったLGBTs権利運動とともに発展してきたこの文化は、今や世界中で多くの人々に影響を与えています。近年のジェンダーレスファッションの台頭、大手ブランドのLGBTs支援、サステナブルファッションへの関心の高まりなど、LGBTsファッションを取り巻く環境は急速に改善されています。

技術の進歩と社会の意識変化により、LGBTsファッションの未来はさらに明るいものとなるでしょう。すべての人が自分らしさを表現し、尊重される社会の実現に向けて、ファッションは重要な役割を果たし続けます。LGBTsであろうとなかろうと、誰もが自分らしいスタイルを見つけ、ファッションを通じて自己表現を楽しめる世界を目指していきましょう。多様性を認め合い、互いを尊重する社会こそが、真に豊かで美しい未来につながるのです。

関連リンク:LGBTsフレンドリーな旅行先:2023年のトップランキングと日本の立ち位置

参考記事