テレビドラマにおけるLGBTsの描き方が大きく変わり始めたのは2018年頃からです。

「おっさんずラブ」や「女子的生活」などの話題作が続々と放送され、LGBTs当事者を「どこにでもいる1人の生活者」として丁寧に描くドラマが増加しました。

この記事では、日本で制作されたLGBTsドラマの中から特におすすめの作品を紹介し、それぞれの魅力や見どころを詳しく解説します。

日本のLGBTsドラマの変遷と意義

日本のテレビドラマで日常に存在するLGBTsが描かれるようになったのは1996年放送の「同窓会」などが有名です。しかし90年代のドラマなどに登場する当事者の描写にはステレオタイプな表現が多く見られました。

2010年台後半頃には、LGBTs当事者の監修が入るケースなどが増えるようになり、作品の質が飛躍的に向上しました。

現在では、LGBTsを単なる話題作りの要素ではなく、ドラマの重要な登場人物として自然に描く作品が主流となっています。

これらのドラマは、LGBTs当事者にとっては自分らしく生きる勇気を与え、非当事者にとっては多様性への理解を深めるきっかけとなっています。

日本社会におけるLGBTsの認知度向上に大きく貢献しており、その社会的意義は計り知れません。

関連リンク:LGBT当事者がおすすめするLGBTがテーマのドラマ(日本と海外)

ゲイカップルを描いた名作ドラマ

日本のLGBTsドラマの中でも、男性同士の恋愛を扱った作品は特に多く制作されています。

これらの作品は、従来のBL(ボーイズラブ)とは異なり、リアルな男性同士の関係性を描いているのが特徴です。

社会的な困難や家族との関係、職場での悩みなど、現実的な問題を含めて描写することで、より多くの視聴者に共感を与えています。

ゲイカップルの日常を描いた作品から、コメディタッチで描かれた恋愛模様まで、多様なアプローチで男性同士の愛情を表現した名作が数多く生まれています。

おっさんずラブ(2018年〜)

「おっさんずラブ」は2018年にテレビ朝日で放送され、社会現象を巻き起こしたLGBTsドラマの金字塔です。

女性にまったくモテない33歳のサラリーマン・春田創一(田中圭)が、ある日突然、上司の黒澤武蔵(吉田鋼太郎)と後輩の牧凌太(林遣都)から同時に愛の告白を受けるという設定です。

従来のLGBTsドラマとは異なり、深刻になりがちなテーマを軽やかに描き、誰もが楽しめる作品として多くの視聴者から愛されました。

2019年には映画化され、続編も制作されるなど、その人気の高さを物語っています。

作品サイト:土曜ナイトドラマ『おっさんずラブ』

きのう何食べた?(2019年〜)

よしながふみの人気漫画を実写化した「きのう何食べた?」は、弁護士の筧史朗(西島秀俊)と美容師の矢吹賢二(内野聖陽)というゲイカップルの日常生活を描いた作品です。

2人の穏やかな同棲生活を中心に、手作り料理のシーンが印象的で、「飯テロドラマ」としても高い評価を得ています。

LGBTsの恋愛関係を特別視せず、ごく普通の生活の延長として描いている点が多くの視聴者の心を掴みました。

料理レシピも実際に作れるものばかりで、ドラマを観ながら料理の勉強もできる一石二鳥の作品です。

作品サイト:ドラマ24『きのう何食べた?』

弟の夫(2018年)

田亀源五郎の名作漫画を実写化した「弟の夫」は、NHK BSプレミアムで放送されたヒューマンドラマです。

小学生の娘を持つシングルファーザーの弥一(佐藤隆太)のもとに、亡くなった双子の弟の夫であるマイク(把瑠都)がカナダからやってくるところから物語が始まります。

同性婚への理解が深まっていく弥一の心境の変化と、家族の絆を温かく描いた感動作です。

LGBTsに対する偏見や理解の壁を、家族という身近な関係性を通して丁寧に描写し、多くの視聴者に深い感動を与えました。

Life 線上の僕ら(2020年)

イケメン俳優陣が多数出演したBLドラマで、複数のカップルの恋愛模様を描いています。

学園を舞台に、それぞれ異なる悩みや背景を持つ男子高校生たちの青春と恋愛を繊細に表現しました。

美しい映像と繊細な演技により、多くの視聴者を魅了した作品です。

特に人間関係の複雑さと、それぞれのキャラクターの心の成長を丁寧に描いている点が高く評価されています。

作品サイト:『Life 線上の僕ら』公式サイト

同窓生(2014年)

中学時代の同級生だった2人の男性が大人になって再会する物語を描いたBLドラマです。

過去の想いと現在の複雑な関係性を通して、大人の恋愛の深さを表現した作品として話題となりました。

静かな演出の中に込められた情感豊かなストーリーが印象的です。

大豆田とわ子と三人の元夫(2021年)

松たか子主演のコメディドラマで、元夫の一人がゲイとして描かれています。

LGBTsがメインテーマではありませんが、自然にゲイキャラクターが登場し、家族の多様な形を描いた作品として注目されました。

関連リンク:LGBT当事者がおすすめするLGBTがテーマのドラマ(日本と海外)

トランスジェンダーを描いたドラマ

日本のドラマにおいて、トランスジェンダーを主人公とした作品は比較的少ないものの、近年その数は徐々に増加しています。

これらの作品は、性別違和感を抱える人々の日常生活や社会的な困難を描くことで、トランスジェンダーへの理解を深める重要な役割を果たしています。

従来のステレオタイプな描写から脱却し、当事者の視点に立った丁寧な作品作りが評価されています。

性別移行の過程で直面する様々な課題や、周囲の人々との関係性の変化なども含めて、リアルな体験を描いた作品が注目されています。

女子的生活(2018年)

志尊淳主演の「女子的生活」は、2018年にNHK総合で放送されたトランスジェンダーの女性を主人公とするドラマです。

男性として生まれたものの性自認は女性である「みき」と、彼女の同級生だった後藤(町田啓太)との共同生活を通して、トランスジェンダーの日常的な悩みや喜びを丁寧に描いています。

志尊淳の繊細な演技により、トランスジェンダーの等身大の姿が表現され、2018年度文化庁芸術祭の放送個人賞を受賞しました。

トランスジェンダーについて正しい知識を学べる貴重な作品として、教育的価値も高く評価されています。

作品サイト:NHKドラマ10『女子的生活』

俺のスカート、どこ行った?(2019年)

古田新太が女装家のゲイ高校教師を演じるコメディドラマです。

元ゲイバー勤務の原田のぶおが高校教師として赴任し、生徒や同僚に多様性の大切さを体当たりで教えていく姿を描いています。

一見するとコメディタッチの作品ですが、現代社会の「普通」や「常識」に疑問を投げかける深いメッセージが込められています。

LGBTsの多様性だけでなく、教育現場における固定観念の問題も取り上げており、幅広い層に考えるきっかけを提供する作品となっています。

3年B組金八先生 第6シリーズ(2001年〜2002年)

上戸彩がトランスジェンダーの生徒を演じた金八先生シリーズは、当時としては革新的なテーマに取り組んだ作品でした。

性同一性障害について真正面から取り上げ、教育現場での理解の重要性を訴えました。

多感な中学生の心境を通して、性別に関する悩みを丁寧に描いた記念すべき作品です。

関連リンク:今すぐ観たい!日本と海外のトランスジェンダーのドラマ9選!

レズビアン・バイセクシュアルを扱った作品

日本のドラマにおいて、女性同士の恋愛を描いた作品は男性同士の恋愛を扱った作品に比べて少ないのが現状です。

しかし、近年は徐々にレズビアンバイセクシュアルの女性を主人公とした質の高い作品が制作されるようになってきました。

これらの作品は、女性特有の恋愛観や社会的な立場を踏まえた繊細な描写が特徴的です。

レズビアンの恋愛を正面から描いた作品から、女性同士の友情と恋愛の境界線を探る作品まで、多様な視点で女性同士の関係性を表現しています。

ラストフレンズ(2008年)

長澤まさみ、上野樹里、瑛太などの豪華キャストが出演したフジテレビの話題作です。

DV、性同一性障害、恋愛恐怖症など、現代社会の様々な問題を抱える若者たちの群像劇として描かれました。

上野樹里演じるルカは、女性の身体に生まれながら男性として生きたいと願う性同一性障害の青年として描かれ、当時大きな話題となりました。

重いテーマを扱いながらも、友情と愛情の尊さを描いた名作として現在でも多くの人に愛されています。

ミストレス〜女たちの秘密〜(2019年)

長谷川京子、水野美紀らが出演した「ミストレス〜女たちの秘密〜」は、複雑な恋愛関係に巻き込まれる4人の女性を描いたドラマです。

その中で水野美紀演じるキャラクターがレズビアンとして描かれており、女性同士の恋愛を真正面から取り上げた貴重な作品です。

日本のドラマでレズビアンの恋愛が詳しく描かれることは珍しく、40秒にも及ぶキスシーンが話題となりました。

女性同士の愛情を美しく繊細に表現し、多くの視聴者に強い印象を残した作品です。

櫻の園(2008年の映画)

女子校を舞台にした青春ドラマで、福田沙紀、岩田さゆりらが出演しました。

1990年にも制作された同名の原作漫画をベースとする映画で、2008年にも映画化されています。

少女たちの繊細な感情と友情を通して、女性同士の特別な絆を描いた作品として注目されました。

直接的な恋愛描写は控えめながら、女子校特有の濃密な人間関係を美しく表現しています。

アセクシュアル・アロマンティックを描いた革新的作品

従来のLGBTsドラマがゲイやレズビアンを中心に描いてきた中で、恋愛感情や性的欲求を持たない人々を主人公とした作品も登場し始めています。

これらの作品は、恋愛至上主義の現代社会において、恋愛以外の人間関係の価値を問い直す重要なメッセージを発信しています。

アセクシュアルアロマンティックの人々が直面する社会的な誤解や偏見についても丁寧に描かれており、多様な愛のかたちを提示する革新的な試みとして注目されています。

恋せぬふたり(2022年)

NHKで放送された「恋せぬふたり」は、恋愛感情を持たないアロマンティック・アセクシュアルの2人を主人公とした画期的なドラマです。

高橋一生と岸井ゆきのが、それぞれ異なる理由で恋愛に興味を持てない主人公たちを演じています。

従来のLGBTsドラマがゲイやトランスジェンダーを中心に描いてきた中で、アセクシュアルという性的指向にスポットを当てた稀有な作品です。

恋愛至上主義の現代社会で、恋愛以外の関係性の価値を問い直す重要なメッセージが込められています。

BL(ボーイズラブ)ドラマの台頭

近年、BLジャンルのドラマが急速に増加し、一大ブームとなっています。

これらの作品は、従来の現実的なゲイドラマとは異なり、ファンタジー要素やコメディ要素を取り入れた軽やかな作風が特徴です。

主に女性をターゲットとした作品が多く、美しいビジュアルと胸キュンシーンで多くのファンを獲得しています。

学園もの、職場もの、ファンタジーものなど、様々な設定で男性同士の恋愛を描いた作品が次々と制作され、BLドラマの多様化が進んでいます。

30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい(2020年)

テレビ東京で放送されたBLドラマの代表作です。

赤楚衛二と町田啓太が出演し、30歳まで童貞を守り続けた結果、人の心が読めるようになった会社員と、爽やかイケメンの同僚との恋愛を描いています。

通称「チェリまほ」として親しまれ、原作漫画、ドラマ、映画と幅広く展開されました。

ファンタジー要素を取り入れながら、純粋な恋心を丁寧に描いた作品として多くのファンを獲得しています。

作品サイト:【木ドラ25】30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい

彼らを見ればわかること(2020年)

複数のカップルの恋愛模様をオムニバス形式で描いたBLドラマです。

それぞれ異なる年代と職業の男性たちの恋愛を通して、多様な愛のかたちを表現した作品として話題となりました。

社会問題を扱った硬派なLGBTsドラマ

LGBTsを取り扱ったドラマの中には、恋愛だけでなく社会的な問題や偏見、差別などの重いテーマを正面から取り上げた作品も存在します。

これらの作品は、エンターテインメント性だけでなく、社会問題への関心を高める教育的な側面も持っています。

職場でのカミングアウト、家族との関係、同性パートナーシップの法的課題など、LGBTs当事者が実際に直面する問題を描くことで、社会全体の理解促進に貢献しています。

これらの作品は、LGBTsの存在を自然なものとして描きながらも、まだ残る社会的な課題についても真摯に向き合っています。

隣の家族は青く見える(2018年)

フジテレビで放送された「隣の家族は青く見える」では、深田恭子、松山ケンイチ演じる夫婦を中心に、同じマンションに住む様々な家族の形が描かれました。

その中で眞島秀和、平山浩行演じるゲイカップルが準主役として登場し、同性カップルの日常生活や社会的な困難を自然に描いています。

不妊治療、LGBT、シングルマザーなど、現代社会が抱える様々な家族の問題を取り上げた意欲作です。

半分、青い。(2018年)

NHKの朝ドラ「半分、青い。」では、中村倫也演じるキャラクターがゲイとして描かれ、話題となりました。

朝ドラという国民的番組でLGBTsが自然に登場したことは、社会的に大きな意義がありました。

主人公の幼馴染として登場し、カミングアウトの困難さや家族との関係など、現実的な問題も丁寧に描かれています。

逃げるは恥だが役に立つ(2016年)

新垣結衣と星野源主演の大ヒットドラマでは、古田新太演じるキャラクターがゲイとして描かれました。

メインストーリーではありませんが、職場の同僚として自然に登場し、LGBTsの存在を当たり前のこととして表現した点が評価されています。

バラエティに富む近年のLGBTsドラマ

2020年代に入り、LGBTsドラマはさらに多様化しています。

従来の恋愛中心の作品だけでなく、コメディ、ミステリー、ファンタジーなど様々なジャンルでLGBTsキャラクターが登場するようになりました。

これは、LGBTsが特別な存在ではなく、日常的に存在する人々として認識され始めた証拠でもあります。

LGBTsをメインテーマとしない作品でも、自然にLGBTsキャラクターが登場する「多様性の日常化」が進んでいることが、近年のドラマの大きな特徴となっています。

家政夫のミタゾノ(2016年〜)

松岡昌宏主演のコメディドラマシリーズで、家政夫として働くミタゾノの正体や性別が曖昧に描かれています。

ジェンダーの境界を軽やかに超越したキャラクター設定で、固定観念を打ち破る自由な発想が魅力的な作品です。

毎回異なる家庭に派遣される中で起こる事件を解決していく構成で、LGBTsテーマをエンターテインメントとして楽しく描いています。

腐女子、うっかりゲイに告る(2019年)

BL好きの腐女子がゲイの男性に恋をしてしまうという設定のコメディドラマです。

金子大地、藤野涼子が出演し、LGBTsをテーマにしながらも軽快なタッチで描かれています。

腐女子文化とゲイコミュニティの違いを浮き彫りにしながら、互いの理解を深めていく過程を描いています。

LGBTsに対する誤解や偏見を解きほぐしながら、真の理解とは何かを問いかける作品として注目を集めました。

LGBTsドラマの視聴方法と配信情報

現在、多くのLGBTsドラマが各種動画配信サービスで視聴可能です。

Netflix、Amazon Prime Video、U-NEXT、Huluなどの主要プラットフォームでは、国内外のLGBTs作品を豊富に取り揃えています。

また、NHK オンデマンドやTVer、各テレビ局の公式サイトでも見逃し配信が行われています。

作品によって配信期間や料金体系が異なるため、視聴前に各サービスの情報を確認することをおすすめします。

無料お試し期間を活用すれば、複数の作品をお得に視聴することも可能です。

配信サービス 月額料金 おすすめLGBTs作品 特徴
Netflix 790円〜 海外LGBTs作品多数 オリジナル作品充実
Amazon Prime Video 500円 おっさんずラブ、女子的生活 コスパ良好
U-NEXT 2,189円 日本のLGBTsドラマ網羅 作品数最多
Hulu 1,026円 海外ドラマ充実 リアルタイム配信

LGBTsドラマが社会に与える影響

日本のLGBTsドラマは、単なるエンターテインメントを超えて、社会の意識変革に大きな役割を果たしています。

これらの作品を通じて、多くの人がLGBTsについて初めて知る機会を得たり、既存の偏見を見直すきっかけを得たりしています。

特に「おっさんずラブ」や「きのう何食べた?」などの人気作品は、LGBTsを身近な存在として感じさせる効果があり、社会全体の理解促進に貢献しています。

また、当事者にとってはロールモデルや自己肯定感の向上につながる重要な存在となっています。

企業でのLGBTs研修でこれらのドラマが活用されるケースも増えており、教育的価値も高く評価されています。

まとめ

日本のLGBTsドラマは、この数年で飛躍的な進歩を遂げました。

かつてはステレオタイプな描写が中心だったものが、今では当事者の等身大の姿を丁寧に描く質の高い作品が数多く制作されています。

「おっさんずラブ」「きのう何食べた?」「女子的生活」「恋せぬふたり」などの代表作は、LGBTs当事者に勇気を与え、非当事者には多様性への理解を深める機会を提供しました。

これらの作品群は日本社会のLGBTs理解促進に大きく貢献し、より多くの人が自分らしく生きられる社会の実現に向けて重要な役割を果たし続けています。

関連リンク:LGBT当事者がおすすめするLGBTがテーマのドラマ(日本と海外)

参考記事: