1. 「また値上がりしている」——その原因は遠い海峡にあった
「良いと思った物件が、先月より家賃が上がっていた。」「リフォームの見積もりを取ったら、思っていた金額より大幅に高かった。」——最近そんな経験をした方は少なくないはずです。
この値上がりの背景には、2026年2月末に起きた中東情勢の急変があります。米国とイスラエルによるイランへの軍事攻撃をきっかけに原油価格が高騰し、その影響は建築資材・設備機器・光熱費といった住宅に関わるほぼすべてのコストに波及しています。
同性カップルの方にとっては、こうした状況はとりわけ切実に感じられるかもしれません。もともと一般の賃貸市場で選べる物件が限られているなかで、さらにコスト上昇が加わっているからです。この記事では、今何が起きているのかを整理したうえで、同性カップルが今この局面でどう動けばよいかを具体的にお伝えします。
2. 中東情勢が住宅に直結する理由——ホルムズ海峡という世界の急所
日本から約7,000kmも離れたペルシャ湾の出口に、「ホルムズ海峡」という場所があります。全長約160kmのこの海峡の最狭部はわずか約34km(21マイル)しかなく、イラク・イラン・サウジアラビア・クウェートなどの産油国が輸出する原油の多くがこの一点を通過します。世界の海上原油輸送量の実に約2割がここを経由しており、「エネルギーの咽喉部」と呼ばれるゆえんです。
2026年2月末、米国とイスラエルがイランを攻撃したことへの対抗措置として、イランの革命防衛隊がこの海峡付近の船舶に通過禁止を通告しました。民間のタンカーが相次いで航行を見合わせ、海峡は事実上の封鎖状態に陥り、3月末時点では一日の通過船舶数が3隻程度まで激減したとされています。
日本の原油輸入の約94%は中東からのものであり(2025年データ)、その大半がこのホルムズ海峡を通っています。産油国の筆頭であるイラクについても、原油輸出はバスラ港からホルムズ海峡を経由するルート以外に手段がなく、今回の事態は日本のエネルギー調達に直接的な打撃を与えました。
資源エネルギー庁は代替調達を急いでおり、米国からの調達を2026年5月時点で前年同月比約4倍まで拡大する見込みと発表しています。また日本には約8か月分の石油備蓄があり、即座にエネルギーが止まるという状況ではありません。ただ価格への影響はすでに現実のものとなっており、専門家の多くは当面の高止まりを見込んでいます。
野村総合研究所などのシンクタンクは、今後の展開を次の三つのシナリオで整理しています。
| シナリオ | 想定状況 | 原油価格目安 | 日本経済への影響 |
|---|---|---|---|
| 楽観シナリオ | 衝突が短期で収束 | 約77ドル/バレル | 物価上昇は軽微 |
| ベースシナリオ | 衝突長期化・一部輸送障害 | 約87〜100ドル/バレル | 物価+0.4%上振れ、GDP▲0.1〜0.2% |
| 悲観シナリオ | ホルムズ完全封鎖・長期化 | 140ドル超/バレル | スタグフレーションリスク |
2026年4月時点ではベースシナリオに近い水準で推移しています。大切なのは、これが「一時的な雰囲気」ではなく、住宅探しの判断に影響する現実の経済環境だと認識することです。
3. 住宅業界で今、何が起きているのか
原油価格の上昇は、住宅業界においては資材コストの上昇として現れます。住宅に使われる断熱材・配管・防水材・塗料・設備機器のほとんどは、石油を原料とするか、製造・輸送に大量のエネルギーを使います。原油が高くなれば、これらすべてが値上がりします。
今回はそれだけでなく、供給そのものが滞るという事態も起きています。衛生陶器大手のTOTOはナフサ調達の不安定化を理由にユニットバスの新規受注を一時停止しました。カネカは住宅用断熱材を約40%値上げし、積水化学工業も配管材料の価格改定を決定しています。石油化学系資材の中には40〜75%台の値上げが生じているものもあり、業界では「2026年建築資材ショック」とも呼ばれる異例の状況となっています。
さらに、建設業の慢性的な人手不足も続いており、2025年度の公共工事設計労務単価は前年比+6.0%と13年連続で上昇しています。三井住友トラスト基礎研究所の試算では、現在の原油価格水準が続いた場合、建築費は前年比で5%以上の上昇が見込まれています。
住宅ローン金利についても、日本銀行は物価上昇と景気悪化の双方を注視しており、先行きは不透明です。建築費の上昇と金利上昇が同時に進む「ダブルパンチ」のリスクは、現在進行形で意識しておくべき問題です。
4. 家賃、光熱費、リフォーム——生活に届く影響を整理する
こうした状況は、住宅を建てたり買ったりする人だけの話ではありません。賃貸で暮らしている方にも、じわじわと影響が及んでいます。
新築マンションや新築アパートの建設コストが上がれば、それが家賃に転嫁されるのは自然な流れです。すぐに大幅な値上がりが起きるわけではありませんが、特に都市部では供給が絞られることで優良な物件をめぐる競争が激しくなっています。「気になっていた物件が気づいたら埋まっていた」という事態は、これからより起きやすくなります。
見落とされがちなのが光熱費です。野村総合研究所の試算によれば、ベースシナリオの原油価格水準では電気代が約6%上昇する見通しで、月額にすると約800円程度の負担増が見込まれます。年間で換算すると約1万円近くになります。これは家賃の比較では見えないコストですが、断熱性能の低い物件に住んでいると、原油高のたびに家計が圧迫されることになります。省エネ性能の高い物件を選ぶことの意味は、今の時代、以前より大きくなっています。
既存の住宅に住んでいる方でも、リフォームや修繕を検討している場合は注意が必要です。資材・人件費ともに上昇していますが、省エネリフォームや耐震改修については国・自治体の補助金制度が充実していますので、補助金を組み合わせた計画的な対応が、実質的な負担を抑えるうえで重要です。
5. 同性カップルの家探しには、もともと「余裕がなかった」
ここまでは一般的な住宅市場の話でした。でも、この記事を読んでいる同性カップルの方には、きっと「わかってはいるけど、自分たちの話はそれだけじゃない」という感覚があるのではないでしょうか。
日本では同性婚がいまだ法的に認められていません。この制度の空白は、住宅市場において具体的な不利益として現れます。賃貸市場で「2人入居可」と表示されている物件は、その多くが婚姻関係や血縁関係を前提としており、同性カップルの申し込みは審査の段階で弾かれることがあります。同性カップルが実質的に利用できる「ルームシェア可」物件は、「2人入居可」物件の約10分の1しか存在しないとされており(2021年11月時点のデータ)、選べる選択肢がそもそも少ないのです。
調査によれば、賃貸手続きで性別・セクシュアリティを理由に不便や困難を経験したLGBT当事者は24.9%にのぼり、一般層の16.5%を大きく上回っています。また、不動産会社の店頭でセクシュアリティを理由に差別や不平等を感じたと回答した当事者は13.5%に達しており、「同性パートナーと一緒だと住まいを確保しにくい」と感じている当事者は37.2%にのぼります。
もっとつらいのは、こうした経験が「制度の問題」だけに起因するわけではないという点です。収入が安定していて保証人がいても、同性カップルというだけで断られることがあります。「なぜ断られたのか理由も教えてもらえなかった」という声は珍しくありません。カミングアウトすれば断られるリスクがあり、隠せば「ルームシェア」扱いになって物件が激減する。その板挟みのなかで物件を探し続けること自体が、すでに大きな消耗です。
6. 逆風が重なる今こそ、戦略的に動くべき理由
中東情勢による住宅コストの上昇は、同性カップルの住宅探しにどう影響するのでしょうか。端的に言えば、「もともと少なかった選択肢が、さらに競争激化・高コスト化の圧力にさらされる」ということです。
一般の入居者であれば「予算を少し上げれば物件の幅が広がる」という対応ができます。しかし、そもそも申し込めない物件が多い同性カップルにとって、コストが上がることは単純に「選べる物件がさらに減る」を意味します。家賃相場が上がれば、いくら探しても予算内で条件を満たす「ルームシェア可」物件が見つからない、という事態が現実になり得ます。
だからこそ、今は「流れに任せて探す」のではなく、戦略的に動く必要があります。具体的には、以下の点を意識することが重要です。
早めに動く:コスト上昇局面では、良い物件の回転が速くなります。「もう少し後で探そう」と考えているうちに選択肢が狭まります。
自治体の制度を活用する:2015年以降、パートナーシップ宣誓制度を導入する自治体が増えています。この証明書が公営住宅や一部の民間物件の審査で活用できるケースもあります。居住する自治体の制度状況を確認することは、住宅探しを有利に進めるための実質的な一手です。
住宅購入も視野に入れる:賃貸での差別を避けるために購入を選ぶカップルもいます。ただし同性カップルの住宅購入では、ローンの共有名義の組み方やパートナー死亡後の権利関係など、異性婚カップルとは異なる法的整理が必要です。公正証書による「財産管理委任契約」や「同居に関する合意書」はパートナーが判断能力を失った場合に備えるものとして有効ですが、死亡後の相続・居住継続には別途「遺言書」の作成が必要です。LGBTQに詳しい弁護士・司法書士への相談を早めに行うことをおすすめします。
頼れる専門家を見つける:これが、おそらく最も重要な点です。一般の不動産会社では、担当者の理解度が属人的であり、「フレンドリーな会社」でも個別の担当者の対応がばらつくことは珍しくありません。同性カップルの住宅探しに本当に寄り添ってくれる専門家がいるかどうかで、結果は大きく変わります。
7. IRISに相談することが、なぜ近道なのか
同性カップルの住宅探しを専門に支援しているのがIRISです。一般の不動産会社との違いは、「LGBTQも歓迎します」というスタンスではなく、同性カップルが直面する具体的な壁——審査の通し方、大家・管理会社との交渉、カミングアウトするかどうかの判断——を熟知したうえで対応している点にあります。
たとえば、「ルームシェア可」として申し込めそうな物件の選定から始め、申し込みの際にどう関係性を伝えるか、あるいは伝えないかを含めたアドバイスを受けられます。物件探しの入口から審査、入居後のフォローまで、パートナーシップを前提にしたサポートが受けられることは、一般の不動産会社にはない大きな強みです。
今のような住宅コスト上昇局面では、限られた選択肢のなかで良い物件を確保するスピードと精度が重要になります。同性カップルの住宅探しを熟知した専門家に最初から相談することは、時間とエネルギーの節約という意味でも、非常に合理的な選択です。
「まだ具体的に探し始めたわけではない」「相談するほどの話かわからない」という段階でも、IRISへの問い合わせは歓迎されています。今の市場状況や、自分たちのケースでどんな選択肢があるかを知るだけでも、次の動きが格段に立てやすくなります。
なお、不当な対応を受けた場合の相談先として、法務局の人権相談窓口(みんなの人権110番 / 0570-003-110)や、各都道府県の居住支援協議会なども利用できます。一人で抱え込まず、頼れる窓口を知っておくことが安心につながります。
8. おわりに——住まいを諦めないために
中東・イラン情勢の影響は、住宅市場に確かな逆風をもたらしています。資材の高騰、供給の不安定化、光熱費の上昇。これらは一人ひとりの「住まい」という基盤に直接響く問題です。
そして同性カップルの方々にとって、この逆風は「もともとあった壁がさらに高くなる」という形で現れます。そのことを、この記事を通じてまず率直にお伝えしたいと思いました。
ただ、だからといって諦める必要はありません。戦略的に動き、頼れる専門家を味方につければ、この状況のなかでも安心できる住まいを確保することは十分に可能です。IRISはそのための専門的なサポートを提供しています。
「自分たちが普通に家を選べる社会」はまだ道半ばです。でも今この瞬間、住む場所を必要としているあなたのために、使える手段と頼れる人が確実に存在しています。ぜひ、一人で抱え込まず動いてみてください。






