2026年5月26日、dentsu Japan(電通グループ国内事業)が「LGBTQ+調査2026」を発表しました。2012年から数えて6回目となるこの大規模調査は、全国の20〜59歳46,658人を対象に実施されたもので、LGBTQ+をめぐる社会意識の現在地を数値で示しています。

今回が過去5回と違うのは、LGBTQ+当事者の割合や認知度だけを測ったわけではなく、非当事者の「わかったつもり」と当事者の「ほんとのところ」のズレそのものに焦点を当てた点です。それは住宅業界にとっても他人事ではありません。「住まい」は、生活のあらゆる場面に関わる法的・経済的基盤であり、そこに残る制度的・意識的なギャップが、LGBTQ+当事者の日常に直接はね返ってくるからです。

本記事では調査の主要な数値を整理しながら、それがIRISの活動領域である住宅市場にどう影響するかを考えます。

調査概要:14年間の継続調査が映し出す社会変化

今回の「LGBTQ+調査2026」は、2026年1月19日〜27日に実施されたインターネット調査です。dentsu Japanは2012年以降、ほぼ3年おきにこの調査を続けており、性的マイノリティをめぐる社会意識の変遷を追ってきました。14年分の蓄積があるからこそ、今回の数値を変化の文脈で読むことができます。

LGBTQ+当事者層の割合は、2012年の5.2%から2015年に7.6%、2018年・2020年に8.9%、2023年に9.7%と上がり続け、今回2026年調査では10.6%を記録しました。この種の調査としてはじめて10%を超えた数字です。

ただし、この増加はLGBTQ+の人口が増えたわけではないと調査側も述べています。多様な性のあり方への認識が社会に広がり、自分のセクシュアリティを「そうだ」と回答できる人が増えてきたと読むのが自然でしょう。数が増えたのではなく、見えるようになってきた、ということです。

核心論点:「わかったつもり」と「ほんとのところ」のズレ

今回の調査に合わせてdentsu Japanが無償公開したデジタルブックのタイトルは『わかったつもりとほんとのところ』。学校、職場、災害時、老後など人生の様々な場面で、非当事者の悪意のない思い込みが当事者の困難を覆い隠してきた、というのが調査全体の問いかけです。これは住宅の現場でも、まったく同じことが起きています。

論点① LGBTQ+という言葉を「知っている」と「理解している」の落差

「LGBTQ+」という言葉を知っている人は76.7%にのぼります。ところが各属性に細かく聞くと、ゲイ(G)の認知率は90.6%に対し、アロマンティック・アセクシュアル(恋愛感情や性的関心を持たない人)は10.7%。その差は約80ポイントです。「LGBTQ+を知っている」という人の大半は、実際には「ゲイやレズビアンという言葉を知っている」に近い状態で、セクシュアリティの多様な広がりまで把握できているケースは多くありません。

不動産の現場では、「LGBTQ+フレンドリー」を掲げる事業者が増えてきました。ただ、言葉を知っているだけの「フレンドリー」では、当事者が実際に必要としているサポートとずれてしまいます。バイセクシュアルの方が同性パートナーと物件を探すとき、トランスジェンダーの方が住民票の性別表記と外見が一致しない状態で来店するときなど、そういった場面では、表面上の「知識」では追いつかないことが少なくありません。

論点② 研修は態度を変える→消費行動にまで影響する数値

今回の調査で、企業でLGBTQ+研修を受けたことがある層とない層を比べると、意識・行動の両面で8〜10ポイント以上の開きが出ました。「LGBTQ+について正しく理解したいと思う」と答えた割合は研修受講層が56.7%、未受講層が43.9%(差12.8pt)。「目の前で誰かが差別的な言動をとったとき、話題を変えたり注意をする」は受講層44.2%に対し未受講層33.6%(差10.6pt)。研修が知識の習得にとどまらず、実際の行動に結びついていることが数値として出ています。

さらに、「店員がLGBTQ+研修を受け、言葉づかいやサービスに配慮がある店を利用したい」と答えた人は63.5%にのぼりました。研修を受けているかどうかが、その店を選ぶかどうかに関わってくる、ということです。住宅購入のような高額・高関与の買い物では、「担当者が信頼できるか」という感覚は特に大きく働きます。「ご夫婦でいらっしゃるんですか?」という何気ない一言、申込書の「婚姻関係」欄の扱い方、案内時の言葉の選び方といった細部が当事者のその後の行動を左右します。

論点③ 同性婚への賛否について、世論は先に進んでいる

同性婚の法制化に賛成する人は67.0%。「日本で同性婚が認められても自分の生活に影響はない」と答えた非当事者は82.6%にのぼりました。反対や抵抗を示す声より、容認・賛成の声の方がはっきり多数派になっています。

これは不動産業界にとって、制度変化がいつ来てもおかしくないというシグナルです。同性カップルの住宅ローン連帯債務、贈与税・相続税における配偶者控除の適用、公営住宅への入居申請など、婚姻関係の有無によって現在は閉ざされている入口が、法制化によって一度に開く可能性があります。その変化に備えておくかどうかで、事業者間の差は今から開いていきます。

論点④ 当事者が「住みやすい街」に求めること

当事者が「住みやすい街のために取り組んでほしいこと」の1位は「学校での教育」(18.0%)でした。また、学校でLGBTQ+について教えるべきだと思う人は全体の81.7%にのぼる一方、実際に学校で教わったことがある人は9.8%にとどまっています。「そうすべきだ」という認識と、「実際にそうなっている」という現実が、80ポイント近く開いているわけです。

住まいの文脈でも同じ構造があります。LGBTQ+当事者が安心して住宅を探せる環境を整えるべきだという声は増えていますが、実際にそれができている不動産会社はまだ少数です。IRISが12年以上取り組んできたのは、まさにこの現実側を前に進めることでした。

住宅市場への影響:5つの変化

ここからは、今回の調査が住宅・不動産市場に何をもたらすかを具体的に見ていきます。

変化① 500万世帯という潜在規模

人口比10.6%という数字を住宅市場に置き換えてみます。日本の世帯数は約5,500万世帯(2020年国勢調査)。当事者比率をそのまま当てはめると、LGBTQ+当事者を含む世帯は潜在的に500万世帯を超えます。

これほどの規模の需要が、長年ほとんど可視化されないままでいた。婚姻関係を前提とした住宅ローン審査、「配偶者」しか選択肢のない申込書類、「ご夫婦で」という言葉が飛び交う店頭など、そういった無意識の設計が積み重なって、「ここは自分たちのための場所ではない」という空気をつくり続けてきました。この需要に応えられる体制があるかどうかは、今後の競争力に直接関わってきます。

変化② 同性婚法制化は「もし」ではなく「いつ」の話

2015年の渋谷区パートナーシップ証明からおよそ10年。今や300を超える自治体が同種の制度を設けており、人口カバー率は90%を超えました。2023年の最高裁判決も含め、司法・行政の動きはゆっくりとながら婚姻平等の方向を向いています。世論の67.0%が賛成という状況であれば、法制化は時間の問題と考えるほうが現実的です。

法的婚姻が認められれば、住宅ローンの連帯保証、共有名義登記、団体信用生命保険など現在グレーゾーンや例外扱いになっている部分が整理されます。相続についても、今は同性パートナーが法的には「他人」であるため、共有不動産の扱いや居住権保護に大きなリスクがあります。これが解消されたとき、長年付き合いのある事業者に相談が集まるのは自然な流れです。その信頼関係を今から積んでおくことが、法制化後の需要を受け止める準備になります。

変化③ 研修の有無が集客の差になる

「研修を受けたスタッフがいる店を使いたい」が63.5%という数字は、研修への投資が費用対効果の問題ではなく、選ばれるかどうかの問題だということを示しています。住宅という買い物の性質上、「安心して話せるスタッフがいる会社か」はかなり初期の段階で判断され、そこで外れると次の機会はありません。

当社が12年以上積んできた経験は、まさにこの「安心して話せる場所」をつくることへの投資でした。今後、企業向けのダイバーシティ研修サービスとしてその知見を外に出していく上でも、「研修は実際に行動を変える」というエビデンスが調査から得られたことは、具体的な説得材料になります。

変化④ 「物件」より「街」を選ぶという感覚

当事者が住みやすさの条件として「学校での教育」を挙げた背景には、物件スペックや価格以前に、「この街で暮らしていけるか」という問いがあります。隣人との関係、地域コミュニティの空気感、自治体の姿勢が、特に同性カップルが長期的な住まいを決める際の判断に大きく関わってきます。

我々が研修などを通じてお客様にも訴えてきた「LGBTQ+フレンドリーな街・エリア」についての知識は、この部分で力を発揮します。「このエリアはパートナーシップ制度の運用が丁寧で、行政窓口の対応も比較的整っています」「近隣にコミュニティの拠点があります」そういった情報は、物件情報サイトには載りません。

老後・介護の視点も外せません。法的パートナーシップのない同性カップルが医療機関や介護施設で「家族」として扱われないリスクは今も現実にあります。遺言や任意後見制度の活用を含めて、住まいを起点とした長期的なサポートができるかどうかが、事業者として問われる場面は今後増えていくはずです。

変化⑤ 「フレンドリー」が競争力になる

同性婚賛成67.0%、性の多様性を学校で教えるべきが81.7%。これらは当事者だけの声ではありません。非当事者を含む全体の数字です。LGBTQ+への対応を明示することが、もはや当事者向けの特別対応ではなく、会社全体の姿勢として評価される時代になっています。

採用でも同様です。特に20〜30代では、働く会社のダイバーシティへの姿勢を重視する傾向が強くなっています。LGBTQ+対応が整った職場は、それ自体が採用競争力になります。業界スタンダードを引き上げていくこと、それは個社の利益を超えた、業界全体への働きかけでもあります。

「ほんとのところ」に向き合い続けるために

dentsu Japanが『わかったつもりとほんとのところ』を公開した背景には、「理解している」と思っている人ほど、実際には当事者とのズレに気づいていないという問題があります。これは当社にとっても例外でなく、自分たちの理解が止まっていないか、サービスが実態に追いついているかを問い続けることが必要だと感じました。

今回の調査を踏まえて、私たちが具体的に取り組むべきことを整理すると、次のようになります。

  • アロマンティック・アセクシュアルをはじめ、認知度の低いセクシュアリティへの対応知識を深める
  • 同性婚法制化を見越した住宅ローン・相続・登記まわりの情報を常に更新する
  • 老後・介護・災害時を含むライフサイクル全体での当事者サポートを充実させる
  • 自治体・地域コミュニティ・他業種との連携を通じて、街レベルでの住みやすさに関わる

住宅は「箱」ではありません。誰かが毎日帰ってくる場所であり、その人が社会とつながる拠点です。LGBTQ+当事者がその場所を安心して選べない状況は、個人の不便ではなく、社会の設計の問題として長年続いてきました。その設計を少しずつ変えていくことが、もっとも重要なことなのです。今回の調査は、まだやるべきことが残っていることを、数字で改めて教えてくれましたと感じています。